判例時報1519号で紹介された事例です(東京地裁令和5年5月23日判決)。

 

 

 

本件は、アメリカ在住の日本国籍を有する男性である原告が、原告の精子によって生成された受精卵を第三者である既婚女性の子宮に移植することによりアメリカで出生した子について、原告を父とする認知届を在ニューヨーク日本国総領事に提出したにもかかわらず、同認知届の提出から1年9か月以上も被告がこれを受理しないことが違法であるとして、国に対し、上記不作為が違法であることの確認(行政事件訴訟法3条5項)とともに、同認知届を受理することの義務付け(同条6項2号)を求めた事案です。

 

 

 

裁判所は、原告は、戸籍法122条により、家庭裁判所に対して不服の申立てをすべきであって、行政事件訴訟法による抗告訴訟を提起することはできないものというほかはないとして訴えを却下しています。

 

 

【要旨】

1 戸籍事件について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる(戸籍法122条)。家庭裁判所は、戸籍事件についての市町村長の処分に対する不服について審判をする(家事事件手続法39条、別表第一の125の項)ものとされ、その手続等が定められている(同法第1編、第2編第1章及び226条以下)。また、戸籍事件に係る市町村長の処分又はその不作為については、審査請求をすることはできない(戸籍法123条)。これらの法律の規定は、戸籍事件についての不服の申立てに関しては、行政事件訴訟の方法による救済よりも、戸籍事件に係る事柄にふさわしい態勢を備えてこれに常時関与している家庭裁判所による救済の方が適切であるとの立法政策上の判断の下に定められたものであり、戸籍法や家事事件手続法の上記規定は、行政事件訴訟法1条にいう「特別の定め」に該当するものと解される。したがって、戸籍事件についての市町村長の処分の適否は、専ら家庭裁判所における家事審判手続において判断されるべきものであって、これを地方裁判所に行政事件訴訟を提起することによって争うことは予定されていないものというべきである。


 2 外国に在る日本人は、戸籍法の規定に従って、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる(40条)ところ、この大使、公使又は領事の処分を不当とする者の不服申立てについては明文の規定がない。しかしながら、戸籍事件に関する市町村長の処分について家庭裁判所に対する不服申立てが定められているのは、前記のとおり、戸籍事件の性質上、家庭裁判所がこれを処理することが適切であるという理由によるものであるから、この趣旨に照らすと、戸籍の届出に関して戸籍事務管掌者である市町村長と同一の権限を有する大使、公使又は領事の処分の当否についても、家庭裁判所に対する不服申立てによって争わせるのが相当というべきである。したがって、戸籍法122条の規定を類推適用し、戸籍事件について、外国に駐在する日本の大使、公使又は領事の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができるものと解すべきである。