最高裁第二小法廷令和5年11月6日判決(判例タイムズ1518号など)

 

 

本件は、銀行の海外の特定外国子会社に係る税務が問題となった案件で、特定外国子会社の収益を益金として合算課税できる条件を定めた租税特別措置法から委任を受けた政令の定めの合理性が問題とされました。

 


本件では、当該銀行は、当該特定外国子会社の全株を保有していたものの、当該特定外国子会社は優先出資証券により調達した資金を当該銀行に貸し付け、銀行が支払う利息はすべてその優先出資証券への支払に充てられていため、当該銀行に対する配当は全くされていなかったという状況でした。

政令の定めでは、事業年度終了時点における請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額に実質的に着目して合算課税することができるための基準としていたたため、このような状態が続く限り、当該銀行は当該特定外国子会社との合算課税はされないはずでした。

 

 

しかし、当該特定外国子会社は事業年度途中で優先出資証券をすべて償還してしまったため、政令の定め(本件規定)によると合算課税の基準を満たしてしまうことになり、まったく配当を受けられていないのにもかかわらず合算課税されてしまうということになり、これが不合理だとして争ったというものです。

 

 

原審(高裁)は、当該銀行(被上告人)が本件各子会社から剰余金の配当等を受けることは想定されていなかったため、内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するという、いわゆるタックス・ヘイブン対策税制の下での合算課税の合理性を基礎付ける事情は見いだせない上、本件各子会社事業年度における処理につき、租税回避の目的も、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないとし、本件規定を本件に形式的に適用することは、本件委任規定の趣旨及びタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨に反するから、その限度で本件規定を本件に適用することはできないというべきであると判断したのに対し、最高裁はつぎのとおり述べてその判断を覆しています。

 

 

⑴ 本件では、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となるところ、この点を判断するに当たり、まず、本件規定の内容が、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するか否かにつき検討する。
 本件委任規定は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。これは、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。
 また、本件委任規定は、課税対象金額について、内国法人の有する特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して計算すべきものと規定するところ、これは、請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の割合を持株割合よりも大きくしてかい離を生じさせる方法による租税回避に対処することを目的とするものと解される。
 そして、本件委任規定が課税対象金額の具体的な計算方法につき政令に委任したのは、上記のような目的を実現するに当たり、どの時点を基準として株式等の請求権の内容を勘案した計算をするかなどといった点が、優れて技術的かつ細目的な事項であるためであると解される。したがって、上記の点は、内閣の専門技術的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。
 このような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、事業年度終了の時という定め方は一義的に明確であること等を考慮すれば、個別具体的な事情にかかわらず上記のように基準時を設けることには合理性があり、そのような内容を定める本件規定が本件委任規定の目的を害するものともいえない。
 そうすると、本件規定の内容は、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するものということができる。


⑵ 以上を前提として、次に、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かにつき検討する。
 前記事実関係等の下において本件規定を適用した場合には、本件各子会社事業年度における本件各子会社の利益は本件優先出資証券にのみ配当されたにもかかわらず、本件優先出資証券が同事業年度の途中で償還されたために本件保有株式等割合が100%となり、被上告人に対して合算課税がされることとなる。
 もっとも、前述のとおり、個別具体的な事情にかかわらず基準時を設ける本件規定の内容が合理的である以上、上記のような帰結をもって直ちに、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱することとはならないところ、特定外国子会社等の事業年度の途中にその株主構成が変動するのに伴い、剰余金の配当等がされる時と事業年度終了の時とで持株割合等に違いが生ずるような事態は当然に想定されるというべきである。また、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等は、原則として、内国法人の所得金額の計算上、益金の額には算入されない以上(平成27年法律第9号による改正前の法人税法23条の2第1項等)、本件委任規定につき、特定外国子会社等において剰余金の配当等が留保されることにより内国法人が受ける剰余金の配当等への課税が繰り延べられることに対処しようとするものと解することはできないから、前記事実関係等の下において剰余金の配当等に係る個別具体的な状況を問題とすることなく本件規定を適用することによって、本件委任規定において予定されていないような事態が生ずるとはいえない。加えて、前記事実関係等の下においては、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採り、本件各子会社の適用対象金額が0円となるようにする余地もあったと考えられるから、本件規定を適用することによって被上告人に回避し得ない不利益が生ずるなどともいえない。
 そうすると、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。

 

 

 

また、本判決では、原審が、当該銀行は、本件各増額更正処分に係る取消請求において本件各更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であるから、重ねて本件各通知処分の取消しを求める利益を有しておらず、本件訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部分は不適法であるとして、これを却下したのに対し、この点についてはつぎのとおり述べて増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有すると解するのが相当であるとしています。

 

・増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定によりされた更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、上記増額更正処分により一旦確定した税額について、更正の請求の理由を踏まえて改めて調査がされた上で、上記増額更正処分後の税額を減額すべき理由はないとしてされる処分である(同項、同条4項)。そうすると、上記通知処分は、上記増額更正処分とは別個にされた新たな処分であることが明らかであり、上記増額更正処分に吸収され、又はその内容が実質的に包摂されるということもできないのであって、上記更正の請求をした者は、上記通知処分が取り消された場合には、減額更正処分を受ける可能性を回復することができる以上、上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきである。
・本件のように上記増額更正処分後に上記更正の請求がされた場合、これに係る税額が申告税額を下回るときであっても、上記増額更正処分に係る取消訴訟において、上記増額更正処分のうち上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることができるものの、このことから直ちに上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定することはできない。