判例タイムズ1518号などで紹介された最高裁決定です(最高裁令和5年10月26日決定)。

 

 

本件は、吸収合併により消滅するA社の株主が、当該吸収合併決議に反対する反対株主であるとして、会社法785条1項に基づき、株式の買取を求めて価格の査定を申し立てたというものです。

 

 

会社法
(反対株主の株式買取請求)
第785条1項
 吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 

本件で、当該株主は、そもそも「反対株主」といえるのかが争点となりました。

会社法785条2項1号イはつぎのとおり規定し、株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主であることを要件としています。

 

 

 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。
 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

 

本件において、会社は総会の招集通知を発するとともに、本件総会に株主自身が出席しない場合には、招集通知に同封された委任状用紙に本件議案に対する賛否を記載するなどして委任状を作成し、これを返送するよう議決権の代理行使を勧誘していました。
 そして、その委任状用紙には、冒頭に、作成日付、議決権の個数並びに株主の住所及び氏名を記載する欄が設けられていたほか、宛先として「A社御中」と印字されており、これに続いて、「委任状」という表題の下に「私は、..................を代理人と定め下記の権限を委任いたします。」、「令和2年11月13日開催の貴社臨時株主総会及びその継続会または延会に出席して下記の議案につき私の指示(〇印で表示)にしたがって、議決権を行使すること。ただし、議案に対して賛否の表示のない場合及び原案に対して修正案または動議が提出された場合は、いずれも白紙委任いたします。」とそれぞれ印字されており、更にその下に「賛」又は「否」のいずれかに〇印を付けて本件議案に対する賛否を記載する欄が設けられていました。
 本件株主は、議決権の代理行使の勧誘に応じ、本件委任状用紙を用いて、上記の点線の部分に本件代表取締役の氏名を記載するとともに、本件賛否欄の「否」に〇印を付け、その欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」との付記をするなどして原々決定別紙のとおりの委任状を作成し、これをA社に対して返送しました
 令和2年11月13日、本件総会において本件合併契約を承認する旨の決議がされたところ、決議が行われるに当たり、本件代表取締役は本件株主の代理人として本件議案に反対する旨の議決権の行使をしました。

 

 

このような事実関係において、原審は、つぎのとおり説示して本件株主がA社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たらないとしました。

「本件委任状は、代理人となるべき者に対して本件総会における議決権の代理行使を委任する旨の意思表示をした書面であり、本件賛否欄の「否」に〇印を付けた部分は、上記の者に対する指示であってA社に向けられたものであるということはできない。また、本件委任状の宛先がA社とされているのは、代理権を証明する書面が株式会社に提出されなければならないとされていること(会社法310条1項)からすると不自然ではない。さらに、本件付記があることからすると、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されているということもできない。」

 

 

しかし、最高裁は、つぎのとおり述べて本件株主がA社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当であるとしています。

・会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
・これを本件についてみると、本件委任状は、A社が、本件株主に対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、本件株主が、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、A社に対して返送したものである。そうすると、本件株主が本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたA社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、A社に向けて本件吸収合併についての本件株主の意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨の本件株主の意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである。なお、本件付記は、その記載内容等からすると、本件議案に反対する理由を記載したものとみるべきであって、本件付記があることは、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたとの上記判断を左右するものではない。