判例タイムズ1518号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年6月19日判決)。

 

 

本件は、在日コリアン二世、フォトジャーナリスト(在日コリアン二世)である原告が、父に関する記事を公表したところ、 「在日特権とかチョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか? 嫌韓流、今こそ韓国に謝ろう、反日韓国人撃退マニュアルとか読んでみろ チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」というツイートがなされたことから、⑴本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利の侵害による不法行為 ⑵本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティの侵害による不法行為を理由として、投稿者に対して慰謝料請求したという事案です。

 

 

判決は、(1)については、本件投稿は、原告が自身の戸籍を手にしたことをきっかけに、亡くなった原告の父親が韓国籍を有していたことを知ったことや、原告の父親がそのことを隠さざるを得なかったのはなぜかなどといったことが記載された本件原告執筆記事に対して、著名人ではない被告がツイッター上に1件の記事を投稿したというものであり、本件記事のうち、「チョン共」といった差別的な表現を含む部分はそのこと自体相当性を欠くものではあるが、その要旨は「反日韓国人撃退マニュアル」等の書籍を引用しながら、本件原告執筆記事に対して被告個人の見解を示すものであって、広く第三者に対して原告個人への批判や差別的言動を殊更に促すような表現は含まれておらず、本件記事を閲覧した者に対して原告を地域社会から排除することを扇動するような表現であるとまではいえないし、また、実際に原告が地域社会から排除されたと認めるに足りる証拠もない。そうすると、原告が主張するような本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利や法律上保護された利益を認める余地があるとしても、本件投稿によって原告のそのような権利ないし利益が侵害されたとはいえないとして違法性を否定しました。

 

 

しかし、(2)については、つぎのとおり説示して、原告の出自に関する名誉感情を侵害するものといえるから、不法行為が成立するとし慰謝料請求を認容しました(慰謝料額30万円)。

本件記事は、亡くなった原告の父親が韓国籍を有していたことを隠さざるを得なかったのはなぜかなどといったことが記載された本件原告執筆記事に対する応答として投稿されたもので、「チョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか?」、「チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい」、「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」などの記載を含むものであるから、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件記事は、韓国・朝鮮系の人々に対して「チョン共」という差別的な表現を用いた上で、そうした人々が日本人に対して嫌われることをしてきたことを前提として、同じ韓国籍を有する原告の父親もそれを理由に自らの出自を隠したと推測される旨摘示するものといえ、在日コリアン二世である原告の父親のみならず、その子である原告をも韓国にルーツを有することを理由に侮辱する表現を含むものといえる。そして、このような侮辱的な表現行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には原告の名誉感情を侵害するものと解されるところ(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)、差別的言動解消法の前文において「不当な差別的言動は許されない」とされ、また、人種差別撤廃条約4条において「締約国は、〔中略〕差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する」と定められていることなどに照らせば、上記のような差別的な表現を用いて原告を侮辱する本件投稿は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる。