判例タイムズ1518号で紹介された裁判例です(東京高裁令和5年6月8日決定)。

 

 

本件は,前件決定(令和2年3月)において月11万円の婚姻費用の分担を命じられていた夫が,その後営業等所得がなくなり年金収入のみになって収入が減少したとして,前件決定で定められた 1 か月当たり 11 万円の婚姻費用分担額の減額を求めたという事案です。

原審が夫の申立てを認めて婚姻費用を月7万円に減額したため妻が抗告していました。

 

 

高裁は、減額を認めたものの、半年間分の婚姻費用については月9万円とし、その後を月7万円としました。

 

 

その理由として、本件において、夫の総収入は、現在のそれは年金収入のみとして月7万円とするのが妥当であるといえるが、前件決定が推定の基礎としていなかった収入(前件決定日に約806万円の送金を受ける、令和2年8月にな持続化給付金を受給するなど)が認められることから、前件決定の内容は実情に適合せず相当性を欠くに至ったといえるから,事情の変更があったものとして,婚姻費用分担額を変更することが相当であり、前記の収入が一時的な収入であったことに鑑みて、公平の観点から,婚姻費用分担額の減額変更の時期及び額において考慮することが相当であるとしています。

 

 

具体的には,つぎのとおり婚姻費用分担額の減額変更の時期及び額を算定しています。

・婚姻費用分担額の変更の始期は,一般的には,増額又は減額を求める調停を申し立てるなど,増額請求又は減額請求を行う夫婦の一方が他方に対しその意思を明確に表明した時とされることが多い。

・しかし、事情がある本件における減額変更の時期及び額は,令和 2 年分の総収入が増額し,令和 3 年分以降の総収入が減額したと見た場合の婚姻費用分担額の変更の時期や清算見込み額等をも勘案した上,公平の観点から定めるのが相当である。
126 判例タイムズ No.1518 2024.5

・夫の令和 2 年分の現実の総収入(事業収入換算)の額が約1228 万円であったことを踏まえ,妻の収入を 0 円として,形式的に上記算定表に当てはめると,令和 2 年 3 月から同年 12 月までに夫が妻に対して負担すべきであった婚姻費用分担金の額は,1 か月当たり 24 万円ないし 26 万円の範囲内であったものと試算される。

・そして,仮に令和 2 年 3 月から同年 12 月までの婚姻費用分担額は 1 か月当たり 24 万円,令和 3 年 1 月以降は 1か月当たり 7 万円とし,前件決定で定められた令和 2 年 3 月からの婚姻費用分担額である 1 か月当たり 11 万円との差額を清算するとすると,当審決定日(令和 5 年 6 月 8 日)時点で,(24 万円-11 万円)× 10 か月(令和 2 年 3 月から同年 12 月まで)+(7 万円- 11 万円)× 29 か月(令和 3年 1 月から令和 5 年 5 月まで)= 130 万円- 116万円= 14 万円が,なお未払分として残ることになる。

・以上の事情を勘案すれば,公平の観点から,本件における減額変更の時期及び額を,令和5 年 6 月から同年 12 月まで 1 か月当たり 9 万円,令和 6 年 1 月から 1 か月当たり 7 万円とすることにより,両者の調整を図ることが相当である。