判例タイムズ1517号で紹介された事例です(名古屋地裁令和5年6月28日判決)。

 

 

民事訴訟法248条という規定があり、損害が発生したことは認められるが、損害の性質上、その額の立証が困難である場合は裁判所が相当な額を定めることができるというものです。

損害額の立証に苦労することも多い事案は多く、これで決めてもらえれば助かりますが、実務上の感覚としては、あまりこの規定を適用してもらえることは多くはないという印象です。

 

 

民事訴訟法

(損害額の認定)
第248条
 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

 

 

本件は交通事故事案ですが、原告のバス会社が事故によりバスを使用できなくなったとして休車損害を請求したものですが、民訴法248条を適用して損害額が定められた事案です。

 

 

法248条の適用に当たり、裁判所はつぎのとおり述べて、当事者の同意を取り付けています。

・本件では,休車損害の発生の有無及びその金額が争点となっているところ,その審理に際しては,原告が主張する休車期間の運行状況を子細130 判例タイムズ No.1517 2024.4に検討する必要があった。しかし,その分量は膨大であり,かつ,営業秘密にわたる記載が多く,多数の関係者が存することから,書証として提出し,主張立証を重ねることが困難であった。
・そこで,当裁判所は,当事者間で資料を提供し,差支えのない範囲で書証化することで主張立証を重ねることとし,損害の発生が立証できた場合の損害額の算定については,本来であれば伝票等を子細に精査する必要があるが,その困難さやコスト等も踏まえ,民訴法 248 条を適用することを提案したところ,当事者は,この進行に同意した。
 

 

そして、実際の適用に当たって留意すべき点としてつぎのとおり述べています。

・民訴法 248 条は,損害が生じたことが認められることを前提に,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,裁判所が,弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができるとするものであるが,これは,あくまでも原告が損害額の立証責任を負うことを否定するものではなく,同条が適用されない場合,たとえ損害の発生が認定できても損害額の主張立証不十分として請求を棄却すべきこととなる。一方,「立証することが極めて困難」というのは,損害の費目が何であるかはもちろん,立証という訴訟活動に伴う有形無形のコストも踏まえ,当事者に対し,詳細な立証を尽くさせることが困難であるかも踏まえて検討することが相当である。

・本件では,上記のような事情に加え,本件観光バスが,本件事故がなかったとしていつ運行の用に供されるかという仮定を置くこと自体の困難さを踏まえると,損害額の立証が困難な事案であるといえる。


 

そしてつぎのとおり説示して本件における休車損害の額を算定しています。

・原告の休車損害は,①発注が重複する蓋然性が認められるときと②喫煙車両でなければならないときに限り認められるが,平均稼働率が 50%に近いもののそれに満たないこと,本件観光バス修理期間及びそれに応当する前年度の稼働率が 50%を超えた時期及び程度を踏まえると,①については,本件観光バス修理期間中,5%程度に過ぎないものと認められる。
・また,②については,①と重複する可能性が否定できないし,昨今の社会情勢も踏まえると,喫煙車両に対するニーズと禁煙車両に対するニーズに有意な差を付けられないことを踏まえると,上記割合を有意に左右するものとはいえない。そうすると,本件事故によって原告に生じた休車損害は,原告主張額の 5%である 16 万 6695 円(= 333 万 3913 円× 5%)とすることが相当である。

 

 

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