家庭の法と裁判49号で紹介された裁判例です(東京高裁令和5年5月25日決定)。
養育費の支払いを求める場合には家庭裁判所に養育費支払いの調停(審判)を求めることになります(民法766条2項)。
民法
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。4 (略)
本件は、養育費の金額について合意した上で離婚したという事案で、家庭裁判所に対し養育費の支払いについて申立がされた事案ですが、家裁が合意に基づいて養育費の支払いを認めたのに対し、高裁において、本件のように、すでに養育費の取り決めがなさた合意に基づき、養育費を支払うよう命じることを求める場合には、地方裁判所に対して訴えの提起をし、判決を求める民事訴訟手続によるべきであって、これを家庭裁判所に対して求めることはできないと判断されたものです。
養育費の金額が決まっていない場合(協議が調わないとき)には家庭裁判所が、すでに決まっている場合には(権利義務関係が確定している)、地裁が担当するということになるわけです。
なお、本件では、離婚にあたり取り交わされた誓約書等に抵触する行為があり、養育費支払い義務が消滅したのではないかという点についても取り上げられていますが(そうすると、養育費が決まっていないことになり家裁の守備範囲となる)、決定では、次の通り説示して、仮に、相手方に本件誓約規定や本件禁止規定の文言に形式的に該当する違反行為があったとしても、それをもって直ちに、抗告人の養育費の支払義務を消滅させるとの合意(本件支払終了規定)の適用があるということはできず、抗告人は当該支払義務を免れないものと解されるとしています。
「本件誓約規定や本件禁止規定に記載された事由には、文言上、他方当事者に重大な損害を与えると認められる違反行為から、他方当事者には損害が発生しない軽微な違反行為までが含まれると解されるところ、子らに対する抗告人の扶養義務の履行という養育費の性質に鑑みれば、後者の軽微な違反行為により当然に養育費の支払義務が終了すると解することは、子の福祉に反するばかりか、当事者間の衡平にも反するというべきである。」