本件は、拘置所に未決拘禁者として収容されていた元収容者が、行政機関個人情報保護法に基づき、東京矯正管区長に対し、収容中に受けた診療に関する診療録に記録されている保有個人情報の開示を求めたが拒否されたため、①その取消を求めるとともに②家賠償請求をしていたという事案で、①については、下記で紹介したとおり、最高裁において、被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないと解するとの判断のもと心理が差し戻されていました(最高裁令和3年6月15日判決)。

 

 

 

刑事施設収容中に受けた診療に関する保有個人情報の開示請求の可否 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

本件は、前記令和3年の最高裁判決後、情報が開示されたことから、差戻後の控訴審は、場開示を求める請求については却下するとともに、国家賠償請求については、次の通り述べて、一部任用としていました。

「法務大臣及び法務省矯正局の担当者(以下「法務省の担当者等」という。)は、被収容者診療情報は行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるとの解釈を採用し、法務省において組織として当該解釈を周知していたものであり、全国の矯正管区長は、当該解釈に従って、被収容者の医療記録に関する開示の可否を判断してきた実態があるから、法務省の担当者等に職務上の注意義務違反が認められれば、本件決定は国家賠償法1条1項の適用上も違法と評価することが相当である。しかるところ、行政機関個人情報保護法45条1項の規定の文言からは、直ちに、被収容者診療情報が同項所定の保有個人情報に当たると読み取ることはできないこと等からすれば、上記のような解釈を採用すべき相応な根拠は見当たらず、法務省の担当者等において、その職務上尽くすべき注意義務を尽くしていれば、被収容者診療情報は同項所定の保有個人情報に当たらないとの解釈を採用すべきものと認識することができたというべきであり、法務省の担当者等は職務上の注意義務に違反したものというべきである。」

 

 

これに対して、最高裁は、次の通り判示して、国家賠償を認めた判断を覆しています。(最高裁令和5年10月26日判決 判例タイムズ1517号など)。

・本件決定は、本件情報に係る開示請求を受けた東京矯正管区長において、行政機関個人情報保護法45条1項の解釈を誤り、被収容者診療情報は同項所定の保有個人情報に当たるとの見解に立脚して行ったものであるが、そのことから直ちに、本件決定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、東京矯正管区長が本件決定をする上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がある場合に限り、上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第930号、第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
・そこで検討すると、本件決定当時、公表されていた裁判例や情報公開・個人情報保護審査会の答申は、いずれも被収容者診療情報が行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるとの見解を採っていたことがうかがわれる上、第1次上告審が判示した理由と同旨の解釈を示す文献等があったこともうかがわれない。そして、被収容者診療情報について、刑事事件に係る裁判の内容の実現等に付随する作用に関するものとみる余地があることは否定し難く、上記見解が同項の文理に反するものであるとまではいえないし、第三者による前科等の審査に用いられるなどの弊害の発生を防止するという同項の趣旨に照らしても、被収容者診療情報が開示されることになれば収容中に診療を受けた事実、ひいては前科等の存在が明らかになることからすると、上記見解が不合理であるとまではいえない。
・そうすると、本件決定当時、東京矯正管区長が立脚した上記見解に相当の根拠がなかったとはいえず、東京矯正管区長が本件決定をする上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情があるとはいえない。なお、本件決定当時、法務省の担当者等が、東京矯正管区長に対し、通達等をもって上記見解を採用すべきことを命じていたなどの事情はうかがわれない以上、本件決定の国家賠償法上の違法性に係る判断は、東京矯正管区長とは別の公務員である法務省の担当者等が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かによって左右されるものではない。