労働判例1297号で紹介された裁判例です(京都地裁令和5年3月9日判決)。
本件の経緯の概要は次のとおりです。
・食品会社に勤めていた原告がハローワークを通じて、令和2年8月1日、被告会社にトラック運転手として転職した。原告は平成29年9月に障害等級3級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていた。
・採用面接(一次)の際に原告が被告会社に対し提出した書面(職務経歴書)に、持病により月1日通院していると記載されていた。
・二次面接の際、原告は、被告会社に対し、健康診断報告書を提出し、そこにはうつ病で通院、服薬治療中との記載はなかった。
・体験入社の際に、持病について就労可能である医師の診断書を出すように求められ、原告は、うつ病などの傷病名とともに市入牢可能であるとの記載された診断書を提出した。
・原告は令和2年8月1日から就労したが勤務態度などに特に問題はなかった。
・同年8月4日に精神障害3級の記載がある異動申告書を提出したところ、原告は、被告会社から退職勧奨を受け、8月6日をもって一身上の都合により退職する旨の退職届を提出した。
裁判所は、退職届の効力について、原告と被告会社との間に退職についての合意が成立しているとし、原告がこれまでにも退職届を提出したことが複数回あり、その意味するところは十分に理解していたといえるとし、その作成提出について意思表示の菓子は認められないとして、退職は有効であると判断しました。
ただ、被告会社が行った退職勧奨については、原告が精神障害等級3級の認定を受け服薬治療していることのみをもつて、その具体的な内容、程度はもちろん、主治医などの専門的知見を得るなどして医学的見地からの業務遂行に与える影響の検討を何ら加えることなくなされた違法なものであるとして、慰謝料を認容しています(認容額80万円)。
本件退職勧奨は違法と認定されたものの、被告会社による退職勧奨が、原告に対して執拗に迫って退職の意思表示を余儀なくさせるほどのものではあったはいえないとし、退職の意思表示、合意自体は前記のとおり有効であるとされています。