労働判例1300号で紹介された裁判例です(横浜地裁令和3年2月4日判決)。

 

 

本件は、タクシー運転手だった原告が、その上司にパワハラを受けたとして、その上司を訴えたというものです。

原告が主張した具体的なパワハラ行為のひとつとしては、「介護なんて嘘だろう」「うちの会社は介護で3人のドライバーがやめている。そろそろ道を選んだほうがいい」などと言われたりしたというものでした。

また、パワハラ行為の立証にあたって、同僚ドライバーの陳述書を提出していましたが、訴えられた側の上司は、つんじゅつ所の内容は事実に基づかないものであってこのような陳述書の提出は不法行為であるとして、陳述書を作成提出した同僚を相手取って名誉毀損に基づく損害賠償請求をしました(また根拠のないパワハラ行為による請求をしたとして原告に対しても損害賠償請求の反訴をしています)。

 

 

パワハラが問題とされる事案は多くありますが、実際に問題となるのは、その立証です。

本件では、結論から言うと、原告の立証は失敗し、上司によるパワハラ行為は認められなかったとされました。

その理由ですが、原告が組合の知人から受けたアドバイスに基づいて書き留めていたパワハラ行為があったとされる日時について、原告の出勤記録や同僚ドライバーのタイムカードなどから出勤していなかったとされ、客観的事実と齟齬しているとされてしまっています。

 

 

そうすると、上司のパワハラ行為を理由として請求した原告の行為、陳述書を作成提出した同僚の行為について違法であるとなるかというと、そうではなく、そのような訴訟行為が訴訟手続きの目的や趣旨に照らしておよそ必要性が認められないなどの特段の事情がない限り違法性が阻却されるとする通説判例の立場に立ったうえで、原告についてはねパワハラ行為を主張するという訴訟において自己が認識した証拠を提出したものであり、訴訟行為を行う必要性、関連性が優に認められるのであり、その訴訟行為を行うことがおよそ権利の濫用と認められるような事情はなく、名誉毀損による不法行為は成立しないとしました。

また、原告の主張に沿う陳述書を作成提出した同僚の行為についても、陳述書に相手方の社会的評価を低下させることが記載されていた場合に裁判所によって客観的事実として認定されなかった場合に直ちに名誉毀損となるとすれば裁判所によって認定されることが確実であることしか記載できなくなってしまい、これによって陳述書の機能(主尋問の一部代替機能、証拠開示機能)が失われ、当事者の立証活動に萎縮的効果が生じ、実体の解明を困難にするなど民事訴訟の運営に支障をきたす事態となると指摘したうえで、本件において、原告の同僚が、記載内容が虚偽であると認識しつつあえて記載したといったことは認められないうえ、またその記載内容が上司の社会的評価を低下させる表現であるともいえないとして、上司の請求についてもいずれも棄却しています。

 

 

・・・弁護士が作成する準備書面にはそこまで書けないけれども、当事者などの陳述書にはあれこれ言いたいことを盛り込むということは、当事者の感情の発散(ガス抜き)として実務上まま見られるところではありますが、気持ちのような主観的事情を超えて、事実関係にわたるようにな部分については、立証事項との関連や必要性をよく考えてチェックしないといけないところです。

 

 

 

名誉棄損の表現を含む陳述書を作成提出した行為と不法行為の成否について判断した事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)