判例タイムズ1516号で紹介された裁判例です(東京高裁令和4年12月13日判決)。

 

 

本件は、13歳の未成年者につき別居中(離婚はしていない)の妻(母親)が監護権者として定められていたところ、父親との間で教育方針などに対立があったようで、父親が、子の共同親権を有する父母の間で親権行使に関する意見対立が生じ,子が憲法上保障されている幸福追求権,生存権及び教育を受ける権利を実質的に行使することが困難になっている場合において,子の利益のために必要な決定を司法機関等が代わって行うための制度が存在しないこと,②父母が別居し,その子が一方の親と同居している場合に,他方の親がその子に対する親権の行使に関する意思決定から事実上排除された場合であっても,これについて救済を求める制度が存在しないことなどが憲法 24 条 2 項,14 条に違反しており,上記制度の構築に係る立法不作為の違法により精神的苦痛を受けたと主張して,国を被告として国家賠償請求したというものですが、本件では、父親が、自身の他に、未成年者も原告とし、そのを代理人として訴訟提起していたため、未成年者を原告とする訴えに関して、未成年者の親権については共同して行使すべきことを定めた民法818条3項に照らして、かかる訴えが適法かが争点の一つとなりました。

 

 

民訴法31条では、未成年者は法定代理人によらなければ訴訟行為ができないとされています。

 

 

民事訴訟法

(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第31条
 未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

 

そして、民法818条3項は、未成年者の親権は父母が共同して行うとされていますが(本件では父親のみによる単独代理)、一方が親権を行うことができないときは単独で親権を行使できるとされています。

 

民法

(親権者)
第818条3項 
親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

 

 

本件訴訟に関して 「親権を行うことができないとき」に該当するかにつき、裁判所は次のとおり説示して否定し、本件訴えの提起を父母が共同して提起したものではないことから不適法と判断しています。

・民法 818 条 3 項ただし書が定める「父母の一方が親権を行うことができないとき」には,父母の一方が行方不明,重病,心神喪失,受刑中などによって親権を行使するに際して事実上の障害がある場合も含まれると解されている。

・しかし,本件全証拠によっても,未成年者 について,本件訴訟に関してそのような事実上の障害があって親権を行うことができないという事情は認められず,また,そのように解しても未成年者の権利利益が侵害されることとなる特段の事情があるとも認めることができないというべきである。
・①父親と未成年者が別居しており,夫婦共同生活の実体がないことをもって,父母の一方の親権の行使に事実上の障害があると解するとすれば,共同親権を有する父母の間で子の訴訟事項に関して意見が一致しない場合,父母がそれぞれ単独で子の利益になると考える訴訟代理行為をすることができることになり,それらが相矛盾するなどして,子の法的地位を不安定にし,その不利益になるおそれがあるから,相当ではないというべきである。

・② 母親がね父親の親権を一方的に違法に排除し,未成年者の進学に関する情報提供や本件調停で定められた面会交流すら履行せず,その親権を未成年者の利益のために行使する意思が全くないことから,母親には親権の行使について事実上の障害があり,親権を行うことができないときに当たるとの主張については、確かに,母親は,父親に相談することなく未成年者を中学受験のための塾に通わせ,受験校を決めた上,受験終了後に合格した中学校名を伝えたほかは,父親からの進学に関する情報提供の求めに応じなかったことや,面会交流が本件調停で定められたとおり実施されていないことが認められる。他方で,母親は,別居するに際し,当時小学生であった未成年者の監護者と定められており,その監護の一環としてその学習環境にも配慮すべき立場にあるところ,進学に関する父母の意見対立が顕在化していた状況下での言動等から,父親による何らかの進学に関する妨害行為があり得ると懸念したため,受験終了後まで受験校等の情報提供の求めに応じなかったものとみられること,本件調停で定められた面会交流の不履行に至った主な要因は,通塾等のために時間を確保できなくなったことや,飽くまで本件調停の定めに従った実施を求める父親との間で円滑な協議ができない状態であったことにあるとみられ,面会交流自体は時間を短縮するなどして断続的に実施されていることに照らすと,母親が,父親の親権を一方的に違法に排除したとまで評価することはできず,未成年者の利益のために親権を行使する意思がないということもできない。仮に,母親の親権の行使によりその権利利益が侵害されているというのであれば,父親は,母親を相手方として,監護者の変更や親権停止の審判の申立て(民法766条 3項類推,834 条の2)等をすることができるのであり,非監護親の意向が事実上反映されないからといって,直ちに監護親の親権の行使につき事実上の障害があるということはできず,本件全証拠によっても,他に母親の親権の行使について事実上の障害があるとみるべき事情は認められない。

・民事訴訟法 31 条が未成年者について原則として法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができないとしたのは,未成年者の保護と手続の安定性を図るためであると解され,もとより合理性があるところ,父母の婚姻中は共同して親権を行使するとされている(民法 818 条 3 項本文)ことから父母の一方が子の利益を考えて反対する場合に未成年者の訴訟行為ができないとし
ても,未成年者の裁判を受ける権利をはく奪するものであるとはいえず,また,父母の意見対立の有無という社会的事実としての父母の関係性に起因する相違をもって,法的な差別的取扱いであるともいえない。

 

 

また、父親の主張については、民事訴訟法 31 条が未成年者について原則として法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができないとしたのは,未成年者の保護と手続の安定性を図るためであると解され,もとより合理性があるところ,父母の婚姻中は共同して親権を行使するとされている(民法 818 条 3 項本文)ことから父母の一方が子の利益を考えて反対する場合に未成年者の訴訟行為ができないとしても,未成年者の裁判を受ける権利をはく奪するものであるとはいえず,また,父母の意見対立の有無という社会的事実としての父母の関係性に起因する相違をもって,法的な差別的取扱いであるともいえないなどと判示した上で請求を棄却しています。