税務調査の手続きに違法な点があった場合に、そのことが課税処分自体に影響するかという問題があります。

 

 

税務調査手続の違法性と課税処分の取消事由該当性については、リーディングケースとして東京高裁平成3年6月6日判決が「調査手続の単なる瑕疵は更正処分に影響及ぼさないものと解すべきであり、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解するのが相当である。」と説示しており、このような厳格な基準に照らすと、税務調査の手続きが課税処分の取消事由に該当するといえるのは極限的な場合に限られ、現実に取消事由となるようなことはほとんどないものといえます。

 

 

しかし、平成23年、税務調査にあたっては事前通知を要することとされたり、調査の結果を説明したりすることが必要とされるなどの税務調査の手続について納税者の権利を保護するための法改正がされており、こうした法改正により、税務調査の手続きの違法性について前記の東京高裁判決のように、課税処分の取消事由該当性に関して極めて厳格に解釈すべきかという問題があります。

 

 

この点、東京高裁令和4年8月25日判決は、税務調査の結果の説明がなかったとして課税処分の取り消しが主張された事案において、法改正の趣旨に触れたうえで、次のとおり説示し、前記平成3年東京高裁判決の基準よりも緩やかに解釈しています。

「平成23年法律第114号による改正により新たに規定された通則法74条の11は、税務調査終了の際の手続について定めており、国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、税務職員は、納税義務者に対し、調査結果の内容を説明することとされ(2項)、その際、納税義務者に対して修正申告等を勧奨することができるとされている(第3項)。国税については、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とする納税申告方式が採用されているところ、従前から、実務においては、調査により非違が発見された場合、税務当局が更正決定等により是正する前に、まずは納税者による自発的な修正申告等を促すことが望ましいという観点から、修正申告等の勧奨が行われてきた。上記規定は、税務当局の納税者に対する説明責任を強化する観点から、調査終了の際の手続について、実務上行われてきた運用上の取扱いを法令上明確化したものである。この改正の趣旨からすると、税務当局が国税に関する調査結果の内容について納税者に対する説明責任を果たさず、その結果、自ら納税義務の内容の確定を行う意思のある納税義務者の修正申告等の機会が実質的に失われたと評価される事案については、税務当局による説明義務が定められた趣旨に反するものとして、当該手続を経てされた課税処分を違法な処分として取り消すべき場合があると解される。

 

 

もっとも、本件においては、次のような具体的な事情から、本件調査担当職員らに対する控訴人側の対応に照らせば、控訴人において調査結果を踏まえて修正申告等を行う機会が失われたともいえないから、本件調査の手続が前記通則法74条の11の趣旨に反するものであったとは認められないと結論付けられています。

・本件についてみるに、本件調査担当職員が、平成30年2月20日、控訴人に、同時点での調査における問題点及び検討事項の説明並びに修正申告の意思確認等を行ったのに対し、B税理士は、極めて敵対的な対応を取り、同年3月19日以降も、調査結果の説明のための日程調整等を拒み続けたこと、控訴人の指定した同年4月26日に本件調査担当職員が控訴人の事務所を訪れ調査結果の説明を行おうとするのに対し、B税理士らは、調査が不十分である旨の反論を繰り返し、説明を受けることを拒否し続けたこと、同席した本件代表者が説明を聞いても良いと述べたのに対しても、B税理士は調査結果の説明を聞いたら調査の終わりということになると述べ、説明を受けることを拒否したこと、面会開始から約1時間40分が経過した頃に、本件調査担当職員が、控訴人側が説明を受けることを拒否したとして調査結果の説明をせずに処分を行う旨を告げて帰署しようとしたところ、B税理士らは調査結果の説明を聞く旨を述べたが、本件調査担当職員が調査結果の説明について最後まで聞く意思があるのかを確認したのに対し、B税理士は、同説明を最後まで聞くということはしない旨述べたこと、そこで、本件調査担当職員は、控訴人に対し調査結果の説明を行わずに処分を行う旨を伝え、控訴人の事務所を退去した。

・こうした経緯等を総合すると、控訴人は平成30年4月26日調査結果の説明を受ける機会を自ら放棄したと評価されてもやむを得ないというべきであり、本件調査担当職員らは、それまでも、控訴人に対し、調査中の時点における問題点や検討事項等の説明を行うなどし、調査結果を説明しようと誠実に対応してきたのであるから、その説明責任を果たしていないとはいえない。