判例タイムズ1515号で紹介された裁判例です(東京地裁令和4年6月30日判決)。

 

 

すでに報道もされましたが、新型コロナウィルス感染症の拡大により経済的な打撃を受けた中小事業者に対する持続化給付金などが、性風俗事業者に対して不支給とされていたことについて、憲法14条1項のほうの元の平等原則に反するのではないかが争点とされた裁判です。

 

 

判決では、次のように指摘して、給付基準の策定に当たっては様々な政策的・政治的な考察に基づく検討を要するものといえるから、給付基準の策定は当該給付行政の実施主体たる行政庁の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。特に、本件各給付金のように、その目的が中小事業者らの事業の継続を支えるという社会経済的なものである場合には、給付の費用対効果を判断するに当たっても、例えば当該事業への参入及び撤退の難易並びに廃業により生ずることが予想される国民経済上の不利益の程度といった面を考慮することも必要となるなど、その裁量の範囲は広範なものになるといわざるを得ないとしています。

・憲法14条1項は、法の下の平等を定めているが、同規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら同規定に違反するものではない(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁参照)。そして、このことは、法律上の取扱いか事実上の取扱いかで異なるものではなく、国が行う給付行政において、給付金等の給付基準を法令ではなく内部規則により定める場合についても、同様に当てはまるものというべきである。
・本件各給付金のような給付行政は、限られた財源の中で行われるものであるから、給付の対象者をどのように選別して、各対象者にどの程度の給付をすべきか等の給付基準の策定に当たっては、当該給付に係る政策目的の実現に向けた効果的、効率的なものとする必要があり、そのためには、潜在的な対象者の間に存する事実関係上の差異に着目することに加え、類似の目的を有する他の施策とのすみ分けや均衡についても考慮すべきものである。また、当該給付の実施が他の政策目的の実現を阻害することとならないように、他の施策との整合性についても考慮することが必要である。さらに、給付行政もまた公金の支出である以上、その制度設計に際しては、政治的中立性や政教分離の原則への配慮を要することはもちろん、当該支出について最終的に納税者の理解を得られるものとなるよう一定の配慮をすることも許されるものというべきである。
 

 

そのうえで、判決は、次の通り指摘して、届出制とされている性風俗性風俗関連特殊営業が、風営法において許可制である風俗営業と異なる法的取扱いを受けていることに着目しています。

・風営法は、規制の対象とする営業として風俗営業と性風俗関連特殊営業を区分して定めているところ、風俗営業とは主として「飲酒」や「射幸」に関連するものであり、性風俗関連特殊営業は「性」に関連するものである。そして、風営法は、その目的規定においても明らかなとおり、風俗営業については、規制を課すことと同時にその健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることをも目的とするのに対し、性風俗関連特殊営業については、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずる対象とはされておらず、専ら規制の対象とされているものである。すなわち、風俗営業については許可制が採用され、風俗営業を営もうとする者の人的欠格事由、営業所に係る物的欠格事由及び営業制限地域等の許可の基準が定められ、同基準に適合しない場合には公安委員会は営業の許可をしてはならないこととされ、加えて、許可を受けて風俗営業を営む者について具体的な遵守事項等を定めることによって、風俗営業に求められる適正な業務等の水準が示され、その水準に誘導することによる風俗営業の健全化が図られている。

・これに対し、性風俗関連特殊営業については届出制が採用され、性風俗関連特殊営業を営もうとする者は公安委員会に所定の届出書を提出すれば足り、これに対して公安委員会は届出書の提出があった旨を記載した書面を交付することとされているのみであり、性風俗関連特殊営業については、風俗営業における許可の基準や遵守事項のように、その健全化を図るために当該営業に求められる適正な業務等の水準というものは示されていない。もとより、このことは、性風俗関連特殊営業に対する規制が、風俗営業に対する規制より緩和されているということを意味するものではない。性風俗関連特殊営業についても各種規制が課されているところ、例えば場所的規制についていえば、都道府県が条例で風俗営業に係る営業制限地域を定めるに当たっては政令で一定の基準が定められているのに対し、都道府県が条例で店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業の受付所営業、店舗型電話異性紹介営業の営業禁止地域を定めるに当たっては格別の基準は定められておらず、各都道府県の判断によって、より広範な地域において営業自体を禁止することが可能とされている。

 

 

そして、このような風営法上の性風俗関連特殊営業に対する法的取扱いの差異は、合理的な理由があるものとしています。

・その歓楽性・享楽性が人間の本能的欲望に起因するものであることに加え、我が国の国民の大多数が、性行為や性交類似行為は極めて親密かつ特殊な関係性の中において非公然と行われるべきであるという性的道義観念を多かれ少なかれ共有していることを前提として、客から対価を得て一時の性的好奇心を満たし、又は性的好奇心をそそるためのサービスを提供するという性風俗関連特殊営業が本来的に備える特徴自体がこうした大多数の国民が共有する性的道義観念に反するものであり、かつ、このような特徴は風営法が当該営業に対して営業所の構造・設備についての技術上の基準その他のいかなる条件を課したとしても変わりようのないものであることから、業務の適正化や営業の健全化といった目的になじまないとの考えに基づくものと解される。

・そして、以上のような性風俗関連特殊営業の本来的に備える特徴に照らして、国が、性風俗関連特殊営業に求められる適正な業務等の水準なるものを公的に示して当該水準に到達することを推奨したり、一定の水準に到達したものを許可という形で公的に認知したりすることは、上記のような大多数の国民が共有する性的道義観念にも反して相当ではないこと、他方で、こうした営業を一般的に禁止することもまた営業の自由を過度に制約し、あるいは国民に対し最小限度以上の性道徳を強制することにもなって相当ではないことから、性風俗関連特殊営業については、善良な風俗と清浄な風俗環境の保持及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止を目的として営業禁止地域等の厳格な規制を課した上で、違法行為が行われた場合には直ちに行政処分や刑事罰をもっ

 

 

以上を前提として、本件各不給付規定の目的には、合理的な根拠があるものと認められ、憲法14条1項には違反しないと結論付けています。

・本件各規程は、本件各不給付規定を定め、性風俗関連特殊営業を行う事業者を給付対象者から除外しているところ、これは、上記⑵のとおり、性風俗関連特殊営業は、人間の本来的欲望に根差した享楽性・歓楽性を有する上、その本来的に備える特徴自体において、風営法上も国が許可という形で公的に認知することが相当でないものとされていることに鑑み、本件各給付金の給付対象とすること、すなわち、国庫からの支出により廃業や転業を可及的に防止して国が事業の継続を下支えする対象とすることもまた、大多数の国民が共有する性的道義観念に照らして相当でないとの理由によるものと解される。

 

 

本判決は、持続化給付金等の給付については性風俗事業者を除くことについて憲法上野問題はないと判断していてるものですが、性風俗には関わる人々(女性など)の貧困や稼いだ金をホストに貢いでしまうといった問題などがあり、これらの問題については切り分けて別途支援、手当すべき問題であるということはいえるでしょう。