判例時報2426号で紹介された裁判例です。

 

 

本件は、テレビ番組に出演していた芸能レポーターが、歌手(原告)から受けとつていた楽曲でたーの一部を約1分間、番組の中で流したことにつき、原告が著作権(公表権)侵害であるとして芸能レポーターとテレビ局を被告として損害賠償請求したという事案です。

 

 

争点の一つが、芸能レポーターが楽曲を流した理由が、原告が警察に覚せい剤取締法違反で逮捕されるという予定であることが明らかとなったというニュースの関連で流したことから、著作権法41条に該当し許されるのかということでした。

 

 

著作権法

(時事の事件の報道のための利用)
第41条 
写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

 

 

裁判所は、次のとおり判示して著作権法41条には該当しないと判断しています(芸能レポーターとテレビ局(被告ら)に連帯して約117万円の損害賠償の支払いを命令)。

 

・被告らは,本件楽曲は,①視聴者に対して原告による覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための材料を提供するという点において「警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であること」という時事の事件を構成するものであるし,②原告が執行猶予期間中に更生に向けて行っていた音楽活動の成果物であるという点において「原告が有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という時事の事件を構成するものである旨主張する。
・上記①の主張について検討するに,本件楽曲は,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることやこれに関連する報道がされた際に放送されたものであると認められるところ,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることが時事の事件に当たることについては,当事者間に争いがない。
 しかしながら,本件楽曲は,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという時事の事件の主題となるものではないし,かかる時事の事件と直接の関連性を有するものでもないから,時事の事件を構成する著作物に当たるとは認められない。これに反する被告らの主張は採用できない。


・上記②の主張について
 警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることやこれに関連する報道がされた放送時間は,コマーシャルや他のニュースが放送された時間を除くと約62分間であった。
 このうち,本件録音データの再生に伴って原告の音楽活動に言及があった時間は,午後3時31分頃から同36分頃までの約5分間であるが,うち約3分間はコマーシャルが放送された時間であった。
 すなわち,本件番組の司会者は,「うーん。で,ASKA さんが,来月ですか,新曲を YouTube で……。」「まあ,発表されるってことで,Bさんが……。」と切り出し,被告Bは,この発言を受けて,「実は,昨年送ってきた曲がありますんで,コマーシャルの後にちょっとお伝えしたいと思います。」と発言した。
 コマーシャルの放送後,被告Bは,「これ,送られてきたんで。えー,去年の 12 月 22 日で,まあ,タイトルとしては『2020 年東京オリンピック曲』っていうふうについてたんです。」と説明した上で本件録音データを再生した。本件司会者は,本件楽曲を聴いた感想として,「今までの曲調とは全然違いますよね。」,「どっちかというと幻想的な。」と発言し,被告Bも,この感想に同調し,「ちょっと違う感じしますよね。まあ,きれいなメロディではあると思いますけど。」と発言した。
 また,本件司会者は,「こういうのを作って,来月 YouTube で発表しようと。音楽活動に向けて動こうと。」と発言し,被告Bも,「そうですね,この時点では,ご本人もいろいろブログを自分で書いているんで。」などと発言して,本件録音データの再生を止めた。
 そして,本件録音データの再生が終わるとすぐに,本件番組の司会者その他の出演者は,再び,警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であることを話題にし,それぞれ意見を述べるなどした。
 また,上記(イ)以外の部分でも,原告の音楽活動に関する部分がある(14:23頃,14:29頃,14:33頃,15:08頃)ものの,その内容は,上記(イ)と同様に,原告が,2020年のオリンピックのテーマソングとして作曲した本件楽曲を被告Bに送付し,来月,YouTubeでアルバムを発売したり,友人のライブに出たりといった音楽活動に向けて動こうとしている,ということを断片的に紹介する程度にとどまっている。
・上記認定事実によれば,本件番組中における原告の音楽活動に関する部分は,警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する予定であることを報道する中で,ごく短時間に,原告が2020年のオリンピックのテーマソングとして作曲した本件楽曲を被告Bに送付し,来月,YouTube で新曲を発表するなど音楽活動に向けて動こうとしている,ということを断片的に紹介する程度にとどまっており,本件楽曲の紹介自体も,原告がそれまでに創作した楽曲とは異なる印象を受けることを指摘するにすぎないもので,これ以上に原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介はないものであるから,このような放送内容に照らせば,本件番組中における原告の音楽活動に関する部分が「原告が有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という「時事の事件の報道」に当たるとは,到底いうことができない。