金融法務事情2226号で紹介された裁判例です(①東京地裁令和4年11月9日判決②東京地裁令和4年11月22日判決)。

 

 

本件はいずれも別個の事案ですが、会社法433条1項に定められた株主による会計帳簿等の閲覧謄写請求について、「請求の理由」が明らかにされたかどうかを判断したという事案です。

 

 

会社法

(会計帳簿の閲覧等の請求)
第433条1項 
総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

 

①事件で、株主が示した請求の理由

退任取締役に対する退職慰労金(7800万円)の支払いが会社の経営状況からみて違法不当であってそれを会計書類の閲覧謄写によって明らかであることを証明する必要がある、そのような判断をした取締役の任務懈怠を判断するために退任取締役の貢献度を調べる必要がある

(裁判所の判断 請求棄却)

・会社は、請求理由との関連性、必要性を欠く会計帳簿等についてこれを株主に閲覧謄写させる義務がないと解せられるから、株主が会社の財務状況等を確認し、誤った経営判断についての疑いを調査するために会計帳簿等閲覧謄写請求をする場合には、具体的に特定の行為が違法または不当である旨を明らかにしなければならず、その具体性の程度は会社がその理由を見て、その理由との関係で、関連性ないし必要性がある会計帳簿等を特定できる程度に具体的でなければならない。

・本件の請求理由との関係についてみると、会社の財務状況についてはすでに閲覧に供されている計算書類によって判断できる。

・原告が閲覧謄写を求めている総勘定元帳によって退任取締役の貢献度が明らかになるとは考え難い。

・また、会計帳簿とは計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿、すなわち仕訳帳(伝票を仕訳帳に代用しているときはその伝票も含む)、総勘定元帳及び各種の補助簿をいい、株主が求めている書類のひつとである勘定科目内訳明細書は、法人税の確定申告の際に添付が求められている書類であって、会計帳簿及びこれに関する資料にも含まれない。

 

 

②事件で株主が示した請求の理由

株主総会決議を経ずに会社代表者に対して月額70万円の報酬を支払ったこと・自己所有のビルを第三者に対して賃貸する以外の業務を行っていないはずであるのに商品開発費として約17万円の支払いがされていること・会社所有のビルにはすでにテナントが入居しており不動産業者と会食する必要がないのに会食したりしていること・会社代表者の母親を従業員扱いにして業務実態がないのに毎月10万円を支出していること

(裁判所の判断)

・株主総会決議を経ずに会社代表者に対して月額70万円の報酬を支払ったこと、会社代表者の母親を役員扱いにして業務実態がないのに毎月10万円を支出していることの2点については、会社から総会決議があったことについての具体的な反論もなく、役員報酬または従業員給与の支出の有無を調査し、これについての株主としての権利行使をするかどうかについて検討する必要がある(肯定)

・自己所有のビルを第三者に対して賃貸する以外の業務を行っていないはずであるのに商品開発費として約17万円の支払いがされていることについては、会社は不動産賃貸業だけではなく、アパレル、皮皮製品・用品雑貨の輸出や販売といった業務も会社の目的としており、そのための商品開発費を支出できないとはいえないから、それが違法不当な支出であるという具体的な請求の理由が示されているとはいえない(否定)。

・会社所有のビルにはすでにテナントが入居しており不動産業者と会食する必要がないのに会食したりしていることについては、テナントが入居しているからといった直ちに不動産業者との会食等が不要になるということはできない(否定)。