金融・商事判例1681号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年7月7日判決)。

 

 

本件は、株式の大量保有報告書が提出されて買い占めの対象となった上場企業(被告)が、買い占めた側の企業との間のやり取りをサイト上に掲載し、その中で、以前当該企業が行った別会社の株式の大量取得に関して、東京地検特捜部に証取法違反(風説の流布)で逮捕されたとの報道がされた原告が関与していることや当該取得資金源が実質的には反社勢力であるとの報道がなされているとの記載があり、このことが原告に対する名誉毀損、プライバシー侵害にあたるとして提訴されたのが本件になります。

 

 

名誉毀損に関して、本件では、どのような事実が摘示されたのかが争いになりました。

裁判所は、上場企業である被告が、本件の上記記載がその株式の大量保有に至った企業に対してその意図等を確認するやり取りの中でなされたものであり、株主を含む市場関係者に対して情報公開を十分に行うことが期待されており、サイトに掲載された手指もこれに答えるためであったと認められるとし、一般の読者の通常の読み方を基準とした場合、「そのような報道がされている」という事実を摘示したものであって、原告が主張するような原告が反社勢力と関係しているといった事実を摘示したものではないとし、報道がされているという事実を超えて、当該報道内容が真実であるとの印象まで抱くとはいえないとし、被告によるサイトへの掲載をもって原告の社会的評価が低下したとはいえないと判断して名誉毀損の成立を否定しています。

 

 

また、みだりに前科を公表されないというプライバシー侵害の主張については、「ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。」と説示した最高裁判決(最高裁平成8年2月8日判決 ノンフィクション「逆転」事件)を前提として検討し、報道された原告の刑事事件は歴史的社会的に重要な意義を有するものでその中で果たした原告の役割の重要性も極めて大きく、前科事実自体は報道記事の中でも実名をもって繰り返し掲載されていることや原告の氏名を入力して検索すれば本件サイトに限らず別のサイトでも確認できる状態にあること本件報道を行った媒体については信用性をいつ率に否定することができないことなどの事情を指摘して、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとはいえないとしてプライバシー侵害も否定されています。

 

 

なおツイッター上で投稿された建造物侵入の前科についてプライバシー侵害を理由として削除を認めた最高裁判決(最高裁令和4年6月24日)について原告側が手はこれを引用しましたが、事案が異なることや同判決で指摘されている判旨を参照としたとしても結論は覆らないとして退けられています。

 

 

プライバシーに関する事実(建造物侵入で逮捕された事実)を摘示するツイートの削除が認められた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)