判例時報2575号で紹介された裁判例です(横浜地裁

 

 

本件は、被告(学校法人)に勤務していた原告ら(常勤、非常勤の講師 労働組合に加入していた)が、それぞれ被告から受けた停職処分及び諭旨退職処分の各懲戒処分がいずれも無効であると主張して、停職処分の無効確認及び雇用契約上の地位の確認を求めたという事案ですが、処分の理由のひとつは、原告らを含めて保護者や卒業生らが学校に対して提訴した別件訴訟(部活動の不当な運用、職場環境整備義務違反などを主張)に関して、新聞記者からの取材に対してコメントをしたというものでした。

 

 

本件で、新聞の記事となった一つが被告が補助金を不正に流用しているというものでしたが、これは原告らが加入していた労働組合が団体交渉していた教師の大量退職問題とは別のことでした。

 

 

まず、一般論として、裁判所は、「表現行為が、組合活動として行われたものであり、かつそれが正当な組合活動の範囲内に含まれる表現行為(ビラ配布を含む。)である場合には、それを懲戒処分の対象とすることはできない。そして、労働組合が、労働条件、労働環境等の改善及び使用者の経営方針、活動内容等の改善を求める目的で、それらに係る問題点を指摘し批判をすることは、もとより正当な組合活動の範囲内に含まれるものであるから、これらの問題点を周知し、一般の第三者の理解と支援を得るために行われる表現行為もまた、労働組合の重要な活動手段であり、その表現がされた態様が平穏で、職場の規律を乱すおそれがないのであれば、これも正当な組合活動といい得る。また、上記の目的の下で組合活動として表現行為を行う場合には、その記載表現が厳しかったり、多少の誇張が含まれたりしていても、性質上やむを得ないというべきであり、そのような表現行為によって、使用者の運営に一定の支障が生じたり、使用者の社会的評価が低下したりすることがあっても、使用者としては受忍すべきものであるといえる。そうすると、表現行為が組合活動の一環として行われている場合、当該表現が、使用者の社会的評価を低下させるような事実を公表したり使用者を批判する意見を公表したり、その結果、使用者の運営に一定の支障が生じるものであったとしても、①当該表現行為が、労働条件、労働環境等の改善及び使用者の経営方針、活動内容等の改善を求める目的でされており、②当該表現行為を行った手段、態様などが必要かつ相当なものであり、③当該表現が、虚偽の事実を記載したものであったり、殊更に事実を誇張又は歪曲したりしたものではないなどのときには、正当な組合活動として、懲戒処分の理由にすることは許されないというべきである。」と判示しています。

 

 

前記の通り記事となったこととの関連で、本件で原告らが新聞記者にコメントしたことがそもそも組合活動と言えるのかについて、本件各取材コメントが本件学校の教員が大量に退職している問題について言及するものであったこと、本件外部ユニオンは団体交渉等において一貫して本件学校の教員が大量に退職している問題について交渉をしてきたこと、本件新聞記事は、別件訴訟の提起を受けて取材、作成されたものであるところ、別件訴訟において原告らが主張しているのも、過去数年間にわたり毎年教職員が相当数退職していることに係るものであること等の事情に照らすと、本件各取材コメントは、本件外部ユニオンの明示又は黙示の授権、承認があるとして、組合活動として行われたものと認めるのが相当であるとしています。

被告は、本件各コメント記事部分は、いずれも被告がIT推進への補助金を受給している旨の記載に続いて記載されているものであることからすれば、補助金に関して私物化、不透明な経営が行われているとの趣旨で発言したものである旨主張しましたが(労働組合の活動とは別である)、従前の団体交渉等における交渉事項に照らせば、記者からの取材に対して、原告らが突如として補助金の使途の問題について述べるのは、不自然であるし、原告らは、本件各停職処分前の事実確認及び弁明の機会付与の際にも補助金等の使途に関してコメントしたものではないと述べている。また、本件新聞記事のうち、本件各コメント記事部分の直前に引用されている「学校が行政から受けた補助金は一八年度決算で四億八千万超。ICT推進への補助金は一八、一九両年度で計千五百万円超にも上る。」との記載は、新聞記者が、原告らに対する取材とは別途の取材で取得した情報であるとうかがわれるところ、原告らは新聞記者が作成した原稿を事前に確認しておらず、自身の発言の趣旨が前後の文脈で異なり得ること等を指摘する機会も与えられていないのであるから、被告がIT推進への補助金を受給している旨の記載に続いて本件各コメント記事部分が記載されている事実のみをもって、原告らが、補助金に関して私物化、不透明な経営が行われている趣旨で発言したものと認めることはできないと判断されています。

 

 

そして、原告らは、新聞の記者から個別に電話取材を受け、本件各取材コメントをしたところ、本件各コメント記事部分が掲載されたものであるが、本件外部ユニオンと被告との団体交渉等において、原告らは、被告に対し、一貫して、本件学校の教員の大量退職、未払賃金に係る問題、本件外部ユニオンの組合員の有期契約の教員に対する雇止めの撤回等を求めており、その補助金等の使途等については特に話題事項に挙げられていなかったこと、本件新聞記事は、取材、公表の時期及びその記事の内容に照らしても別件訴訟の訴え提起を受けて取材、作成されたものであるところ、別件訴訟において原告らが主張しているのも、過去数年間にわたり毎年教職員を解雇及び雇止めしてきたこと等であり、補助金の使途が不明確であること等は主張の内容としていないこと、本件新聞記事の作成に当たって、原告らは新聞記者から原稿の確認の機会を与えられていないことからすると、原告らが、記者からの取材において、補助金の使途について言及したと認めることはできず、原告らが主張するように、主として、本件学校の教員が大量に退職している問題について言及したと認めるのが相当であるとしました。

 

 

そして、本件各取材コメントを含む本件学校の教員の大量退職に関する本件外部ユニオンの組合活動は、同大量退職の問題に関し、被告の労働者たる教員の労働環境、雇用条件の改善という目的の下にされているものと認められるところ、原告らが本件各取材コメントをした目的は、組合活動として正当であり、本件各取材コメントは、新聞記者からの取材の求めに応じて原告らが応じたものであること、本件新聞記事は、既に提訴されている別件訴訟に関するものとして公表されたものであり、本件新聞記事によって殊更に被告の秘密を暴露されたというものでもないことに照らせば、本件各取材コメントがされ、本件各コメント記載部分として公表されるに至った手段、態様は平穏であり、職場の規律を乱すおそれはなかったと認められ、さらに、本件各取材コメントはいずれも本件学校の教員が大量に退職している問題について言及したものであるが、本件学校の教員が一定期間内に相当数退職している事実が認められ、これだけの数の教員が全く不満なく被告を退職したものとは考え難く、そうすると、このことをとらえて一部の教員が被告を私物化していると指摘することも含め、本件各取材コメントが虚偽の事実を述べたものであるとか、殊更に事実を誇張又は歪曲したものであると認めることはできないなどとして、原告らによる本件各取材コメントは、組合活動として正当な範囲を逸脱しているということができないから、原告らが本件各取材コメントをしたことが、懲戒規程6条(7)「学校の運営に関し不実の事実を流布宣伝したとき」に該当するものとして、懲戒事由とすることはできないと結論づけられています。