判例時報2575号で紹介された裁判例です(大阪高裁令和4年4月15日判決)。

 

 

本件の自治体では,条例で公務上の負傷や疾病等による休職期間中の給与については「全額支給する」と定めていました。

 

地方公務員であった本件原告は,うつ病を発症して休職し,公務災害の認定請求を行い認められましたが,その認定がなされるまでの間は,自治体からは全額に満たない額の支給しかされておらず,認定後に差額は支給されましたが,本来の給与支給日に遅れて支給されたのであるから遅延損害金が発生しているはずだとしてその分の損害賠償請求を行ったというのが本件です。
 

 

第一審判決は,休職者については,職員としての身分を継続保有することになる一方で,いわゆるノーワーク・ノーペイの原則からすると賃金が発生しなくなってしまうことから,本件条例は,休職者に対する生活上の配慮を必要な限度において実現すべく,公務上の負傷や疾病等による休職の場合に限って,休職者に対し,「給与の全額」を支給するという特別の保護を与えた規定であると解される,つまり,休職者に支給される金員は本来の給与とは別のものであるという解釈を取り,また,本件条例が,「職員が公務上負傷し,若しくは疾病にかかり,又は通勤により負傷し,若しくは疾病にかかり,地方公務員法28条2項1号に掲げる事由に該当して休職にされたとき」に支給すると規定していることからすれば,「給与の全額」の支給手続が公務上の災害認定がされた後となる場合があることや,その公務上の災害認定が本来支給日よりも後にされる場合があることについて,当然に想定しているものと考えられ,そうであるにもかかわらず,原告の主張によれば,本件のように,本来支給日の経過後に公務上の災害認定がされ,その後に「給与の全額」の支給手続がとられた場合は,本来支給日の翌日から履行遅滞となるため,公務上の災害認定の時点,あるいは「給与の全額」の支給時点では,既に遅延損害金が発生していると常に考えることになるが,このような解釈を採用することには,無理があると言わざるを得ないとして,原告の請求を棄却しました。

 

 

控訴審判決は,第一審判決の判断を覆して原告の請求を認容しています。

・本件条例が、ノーワーク・ノーペイを原則としつつ、休職者が職員としての身分を継続保有することから、その生活上の配慮の必要性を考慮して休職者給付を認めたものであるということはできるが、その方法として、休職者給付について、特別の給与種目を別に設けるか、一般の職員に支給される給料及び各種手当と同じ賃金を支給することとするかは立法上の問題であって、本件条例は、公務員としての身分保障を十全なものとするべく、後者の方法をとったものと解することができる。また、職員が公務上の疾病等により休職にされたときについてみると、一般に、労働者の就労不能の原因となった傷病が「業務上」のものというだけでは民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による履行不能とはいえないものの、業務上の傷病が使用者の安全配慮義務違反等の過失により生じたと認められる場合には「債権者の責めに帰すべき事由」によるものといえ、労働者が賃金請求権を失わないと解されていることをも考えれば、ノーワーク・ノーペイを原則としつつも、職員が公務上の疾病等により休職にされたときには賃金の全額を支払うとの立法判断をすることが不合理とはいえない。したがって、ノーワーク・ノーペイの原則があるからといって、本件条例に基づく休職者給付が賃金でないとの結論が導かれるものとは認められない。

・本件条例の文理上、休職者が休職者給付の支給を受けるために、地方公務員災害補償法に基づき、基金による公務災害認定(同法45条1項)を受けることは要件とはされていない。その支給の可否についての判断を、地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定に係らしめる必然性はなく、基金による公務災害認定に一定の期間を要することをもって、休職者給付の支払期限が左右されるとは認められない。休職者給付は、他の一般の職員に支給される給料及び各種手当と同様、賃金である以上、定められた支給日に支給されるべきものであり、支給が何らかの事情で遅れたとしても、これを理由に遅滞による遅延損害金が発生することが妨げられることにはならない。確かに、地方公務員災害補償法においては、補償の請求を受けたときに基金が公務災害認定を行うとされる点(同法45条1項)において、補償を受ける者の請求の有無にかかわらず公務災害認定が実施機関において行われる国家公務員災害補償法(同法24条1項)とは異なるものの、災害補償給付における認定手続の在り方によって、賃金である休職者給付の支払期限に関する上記判断が左右されるものでもない。