判例タイムズ1413号で紹介された最高裁決定です(最高裁平成27年3月26日決定)。

 

 

本件は,吸収合併に反対する非公開会社の株主が,会社法785条1項に基づいて反対株主の株式買取請求をした場合に,その株価をどのように算定するかということが問題となった事案です。

具体的には,裁判所が,収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことの可否が問題となりました。

 

 

原審(高裁)は,吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には,吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ,本件会社の株式の換価は困難であり,このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきであるから,株式の換価の困難性を考慮することが裁判所の合理的な裁量を超えるものということはできないと述べて,非流動性ディスカウントを考慮することを肯定しました(1株80円と算定)。

 

 

しかし,最高裁は,次のとおり説示して,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当であると判断しました(1株106円と算定)。

 

 

 「会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は,吸収合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い,その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるところ(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照),非上場会社の株式の価格の算定については,様々な評価手法が存在するが,どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。しかしながら,一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。
 非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。」