判例タイムズ1514号で紹介された裁判例です(東京地裁令和4年4月15日判決)。

 

 

本件は、登記の表題部及び権利部甲区欄に所有者が明記されておらず、権利部乙区欄に原告らが地上権者として記載されている土地につき、被告である国がもと所有者であることを前提に、その登記上の地上権はいわゆる永代借地権であり、昭和17年に勅令によって所有権に転換したものである、又は原告らが本件土地を時効取得したと主張して、被告に対し、原告らが本件土地につき各2分の1の共有持分権を有することの確認を求める事案です。

 

 

本件土地の登記の表題部の所有者欄及び権利部甲区欄には、土地所有者の氏名及び住所の記載は一切なく,他方,同登記の権利部乙区欄には、明治40年11月26日、外国人であるAが、本件土地の当時の所有者に対し、地代の一括払として758円を支払い、本件土地につき存続期間を1000年間とする地上権の設定を受けた旨の記載がありました。このような土地上に,原告らは、昭和63年7月2日に、建物を新築し、以後同建物を共有しているという状態でした。

 

 

随分と経緯が古い話ということになります。

 

 

原告らとしては土地を買ったつもりなのに所有権の登記ができないので、原告は,次のような理由で本件土地の所有権(共有持分権)を自らが取得したものと主張して被告である国に対して所有権の確認を求めたというのが本件です。

・本件土地は、かつて横浜に存在した外国人居留地の一部であったところ、明治8年に被告が横浜にある外国人居留地を一括して買い上げたことにより、本件土地を含む横浜にある外国人居留地の土地は、全て被告である国が所有することとなった。

・その後、横浜にある外国人居留地は、永代借地権に基づき外国人に利用され、昭和17年勅令の施行により、永代借地権者が所有者となった。永代借地権というのは,明治時代、外国人が日本国内の土地について所有権を取得することは認められていなかったため、明治34年に施行された外国人永代借地権に関する法律(明治34年法律第39号。 永代借地権法)において,政府の永代借地券をもって外国人に対して設定された永代借地権は、これを物権とし、民法中の所有権に関する規定を準用することが定められたものです。さらに,大正15年に施行された外国人土地法(大正14年法律第42号)により、相互主義に基づく一定の制限の下に、外国人が日本の土地につき所有権を取得することが認められ,昭和17年勅令第272号「永代借地権の整理に関する件」(昭和17年勅令)において、永代借地権法1条1項に規定する永代借地権を有する者は、昭和17年4月1日にその権利の目的である土地の所有権を取得する旨が定められたという経緯でした。

・このような歴史的経緯によれば、本件地上権登記がされた当時(明治40年)の本件土地の所有者も、昭和17年勅令の施行により永代借地権が所有権に転換した時点(昭和17年)の所有者も、被告であったといえる。

 

 

これに対し、判決では、問題となった土地周辺の歴史的な経緯を踏まえて、国が本件土地を所有したことはないという国の主張を認めるとともに、そうであるならば本件土地は無主物として民法239条2項に基づいて国庫に帰属するという原告らの主張に対して、以前地上権を設定した所有者が存在したが、戦災、震災等によって甲区欄が滅失したままになってしまった可能性が十分考えられることからすると、本件全証拠によっても、本件地上権登記による権利を設定した所有者及びその承継人が存在しないとまでは認められず、本件土地が無主物として民法239条2項により国庫に帰属したということはできないとしました。

 

民法239条2項

所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

 

また、不動産登記法74条1項2号が「所有権を有することが確定判決によって確認された者」とあることとの関係について、同条項が所有権保存登記の申請をすることができる旨を定めたのは、一般に、裁判所が運営する争訟手続は、相手方に自己の利益を防御する機会を保障するなど、慎重、公正な対審構造となっており、相手方当事者において、不当に自己の利益を奪われることのないように防御活動を尽くすのが通例であり、これを前提とした判決は実体上の権利関係を反映する可能性が高く、定型的な証明力を有するといえることからすると、「所有権を有することが確定判決によって確認された者」は登記申請に係る不動産の所有者である蓋然性が高いといえるため、登記の真実性確保に資することにあることをその趣旨とするものと解され、したがって、ある判決が同号所定の「確定判決」に該当するといえるためには、当該判決が、申請者と自己の利益を奪われることのないように防御活動を尽くすことが通常期待される者との間で確定された判決である必要があるというべきである。しかしながら、前記オのとおり、被告は、本件土地につき所有権等の法律上の利益の存在を主張しておらず、本件土地のかつての所有者であったとも認められないことからすると、被告は、本訴において、自己の利益を奪われることのないように防御活動を尽くすことが通常期待される者ということはできないから、仮に原告らが被告を相手として本訴で勝訴したとしても、その勝訴判決は同号所定の確定判決には該当しないから、原告らは、同勝訴判決をもって同号により本件土地の所有権保存登記をすることはできないため、本件訴えは原告らの目的を達成する手段とはならず、原告らの上記主張は本件訴えの確認の利益を基礎付ける事情とはならないとしています。

 

 

これでは原告らが誰を被告として所有権を確認すればよいのか困ってしまうという問題については、改正後の民法264条の2第1項、4項は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地について、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を選任してその土地の管理を命ずる処分(所有者不明土地管理命令)をすることができることとされ、同法264条の4は、所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地管理命令の対象となる土地に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする旨を定めているとの指摘をしています。