判例タイムズ1514号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和5年4月21日判決)。
本件は、男性アイドルグループの一員であった被告に対して、被告との間で専属的にマネジメント及びプロデュースする契約を締結していた芸能事務所が、被告が契約上の義務違反(イベントへの無断欠席などを主張)を5回したとして、契約で約定した違約金1000万円から未払い報酬焼く11万円の支払いを求めたのに対し、被告が未払い報酬の反訴請求をしたという事案です。
被告は、自らは労働基準法上の労働者に当たり、芸能事務所の違約金請求は労働基準法16条に違反し無効であるとして争いました。
労働基準法
(賠償予定の禁止)
第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
判決は、契約上は、被告の芸能活動の選択及び出演依頼等に対する諾否は、被告原告が協議のうえ、決定するものとするとされていたものの、芸能事務所側からの具体的な指示も多数あり、被告は、その指示どおりに業務を遂行しなければ、1回につき違約金200万円を支払わされるという意識のもとで、タイムツリーに記入された仕事を遂行していたものであるから、これについて諾否の自由があったとは認められないこと、被告に対する指揮監督があったものと認められること、被告に対する時間的場所的拘束性もあったと認められること、週に1日程度の休日を与えるほかは、あらかじめスケジューリングをして、時間的にも場所的にもある程度拘束しながら、労務を提供させていたものであるから、その労務の対償として固定給を支払っていたものと認めるのが相当であること、契約上では、副業、アルバイト等は原告に事前に届け出ることにより就業することができるとされているものの、実際には、アルバイト等をすることはスケジュール的に困難であったこと、被告には固定給が支払われており、生活保障的な要素が強かったことなども使用従属性を肯定する補強要素となることなどを指摘して、被告の労働者生を肯定した上で、本件違約金条項は労基法16条に反し向こうとして、芸能事務所の請求を棄却しました(被告からの未払い報酬の反訴請求は認容)。
脱退したアイドルに違約金1千万円請求 労働者と認め「無効」の判決 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)