判例タイムズ1513号で紹介された事例です(大阪家裁令和4年9月5日決定)。

 

 

本件は、建造物等以外放火罪を犯した少年に付き、刑事処分ではなく、少年院送致の保護処分が取られた事例です。

 

 

よく知られている通り、放火罪は刑が重く、建造物等以外放火罪も、現住建造物(死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役)、非現住建造物(2年以上の有期懲役)に対する放火よりは軽いとはいえ、それでも1年以上10年以下の有期懲役系が法定されており、本件のような特定少年(18以上の少年)においては、少年法では、原則として検察官送致対象の罪となっています(少年法62条2項2号)。

 

 

刑法

(建造物等以外放火)
第110条1項 
放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

 

少年法

(検察官への送致についての特例)
第62条 
家庭裁判所は、特定少年(十八歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第二十条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るもの
二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)

 

本決定では、次の通り説示して、検察官送致とはせずに収容期間を2年間とする第一種少年院送致の保護処分を選択しています。

 

 

本件は、原則検察官送致対象事件(少年法62条2項2号)であるが、上記のとおり早期の消火によってゴミ袋数個とゴミネットの焼損にとどまっていること、付添人提出の資料によれば、被害者は少年の刑事処罰を求めていないこと、少年に前歴はなく、上記のとおり少年は精神的に未熟であって、適切な指導が入れば改善更生が見込まれることからすると、本件では検察官送致ではなく、保護処分とすることが相当である。そして、少年については、被害的な認知の修正や、負の感情の対処スキルの習得、良好な対人関係を築くための精神的な基盤づくりなどが再非行防止には欠かせないと考えられるが、少年の認知傾向や誤った対処方法の定着は幼少期からのいじめ被害体験に根ざす根深いものであるし、上記の通り、長年にわたって多重人格の思考を用いて対処してきたことからすると、少年の問題の改善には専門的な知識をもって、生活場面での少年の言動を見ながら継続的に丁寧に指導をしていくことが不可欠である。実母は、少年と同居の上、見守っていくことを誓っているが、少年の生きづらさを分かりながら少年に一人暮らしをさせてきていたことなどからすると、少年に適切な指導をすることは期待できないし、実母宅には少年が好ましくないと感じている実母の交際相手も同居していることからすると、少年にとって実母宅が落ち着いて自身の問題性を見直せる環境にあるとは考え難い。