判例タイムズ513号で紹介された裁判例です(東京地裁令和4年9月9日判決)。

 

 

【不法行為責任の成否 要旨】

⑴ 被告は、私立学校法3条の定める学校法人であるところ、本件大学は、学校法人によって設置された私立学校(私立学校法2条1項及び3項、学校教育法1条、2条1項)に当たり、「法律に定める学校」(教育基本法6条1項)として公の性質を有するものと認められるから、被告は、本件大学の医学部医学科の入学者の選抜に当たっても、憲法並びに教育基本法及び学校教育法を始めとする公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負うものと解される。
 

⑵ そこで検討するに、被告は、平成18年度から平成30年度までの本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試のそれぞれの二次試験において実施した小論文試験の点数について、受験者の性別及び高校卒業年からの経過年数といった属性に応じ、一部の男性受験者だけに加点をするなどして当該受験者の成績順位を高める等の本件属性調整を行っていたことが認められる。
 本件属性調整は、本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において、性別という自らの努力や意思によっては変えることのできない属性を理由として、女性の受験者を一律に不利益に扱うものであって、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条1項の趣旨に反するものというべきであるから、「公正かつ妥当な方法」(大学設置基準2条の2)による入学者の選抜とはいえない。また、本件全証拠によっても、被告が本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において本件属性調整を行ったことについて、合理的な理由があったものと認めるに足りる事情は見当たらない。


 そして、被告は、平成18年から平成30年までの本件大学の医学部医学科の学生募集要項等において、本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において本件属性調整を行っていたことを公表していなかったことが認められるところ、本件大学の一般入試及びセンター利用入試を受験した原告らにとって、入学者の選抜が公平かつ妥当な方法によって行われているか否かは重大な関心事項というべきであり、被告が憲法並びに教育基本法及び学校教育法を始めとする公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負い、「公正かつ妥当な方法」(大学設置基準2条の2)により入学者の選抜を行うべき立場にあることに照らしても、本件大学の一般入試及びセンター利用入試を受験した原告らは、公正かつ妥当な方法により入学者の選抜が行われるものと信じて入学試験を受験したものというべきであって、被告が本件属性調整を行っていることを認識していれば、本件大学の医学部医学科の入学試験を受験することはなかったものと認めるのが相当であり、この認定に反する被告の主張は直ちに採用することはできない。


⑶ したがって、平成18年度から平成30年度までの本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において、本件属性調整を行っていることを公表することなく、原告らに本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試を受験させた被告の行為は、少なくとも本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試を受験した原告らが自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害するものとして、原告らに対する不法行為に該当するものと認めるのが相当である。

 

 

 

東京医科大に受験料返還義務の判決 東京地裁 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)