https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200306/k10012317101000.html?utm_int=news-social_contents_list-items_072

 

 

6日の判決で、東京地方裁判所の前澤達朗裁判長は「受験生を性別や年齢などで一律に不利益に扱う得点調整は、法の下の平等を定めた憲法の趣旨に反し、受験生にこれを告知しなかったことは違法との評価を免れない」と指摘し、受験料については返還義務を認める判決を言い渡しました。

(3月6日NHKニュースウェブから一部引用)

 

この問題が持ち上がった当時考察していたことについては以下のとおりです。

 

 

【差別やめろ、受験料返せ」女子減点に女性抗議】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12395791188.html

 

 

本件の訴訟手続きの根拠となっている消費者裁判特例法の正式名称は「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」というもので,平成25年に成立しています。

 

 

消費者裁判特例法3条1項により,特定適格消費者団体(本件では原告となった消費者機構日本)が消費者契約に関する所定の各請求について,共通義務確認の訴えを提起することができるとされています。

本件では,記事の要旨を読む限りでは,説明義務に違反したものとして受験料相当額が不法行為による損害賠償の対象として認められたものと解されます。

 

 

消費者裁判手続き特例法
第3条1項 特定適格消費者団体は、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する次に掲げる請求(これらに附帯する利息、損害賠償、違約金又は費用の請求を含む。)に係るものについて、共通義務確認の訴えを提起することができる。
一 契約上の債務の履行の請求
二 不当利得に係る請求
三 契約上の債務の不履行による損害賠償の請求
四  担保責任に基づく損害賠償の請求
五 不法行為に基づく損害賠償の請求(民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定によるものに限る。)

 

 

訴えが認容された後は,当事者であった特定適格消費者団体が簡易確定手続を裁判所に申し立て(法12条),通知や広告を経て,対象とする実際の個々の消費者から授権をしてもらい(法31条1項),同団体が裁判所に対し債権届出を行うことになります(法30条)。

 

 

裁判所は届出消費者表を作成し(法41条1項),事業者側の異議がないなどして確定したものについては確定判決と同一の効力を有することになります(法46条6項,法47条2項)。

 

 

上記のとおり,消費者裁判手続き特例法では,一段目の手続き(共通義務確認手続き)と二段目の手続き(個々の消費者についての対象債権の確定手続)に分かれているということになります。

 

 

今回提起された訴訟は共通義務確認手続きということになりますが,その確定判決は,訴訟の当事者(原告である特定適格消費者団体 本件の場合消費者機構日本,被告度ある事業者,本件の場合東京医科大)のみならず,当事者以外の特定適格消費者団体や届出消費者にも及ぶものとされ,判決の確定効が拡張されています(法9条)。

 

 

消費者裁判手続き特例法

第9条 共通義務確認訴訟の確定判決は、民事訴訟法第百十五条第一項の規定にかかわらず、当該共通義務確認訴訟の当事者以外の特定適格消費者団体及び当該共通義務確認訴訟に係る対象消費者の範囲に属する第三十条第二項第一号に規定する届出消費者に対してもその効力を有する。

 

そうすると,共通義務確認訴訟で特定適格消費者団体が敗訴してしまった場合,その効力が個々の消費者にも及んでしまいそうにも思われますが,そうではなく,判決の効力が拡張されるのはあくまでも第二段目の手続きにおける「届出消費者」に限られますので,共通義務確認訴訟で特定適格消費者団体が全部敗訴した場合には第二段目の手続き自体が行われないので「届出消費者」自体が存在しないことになり,個々の消費者はさらに別途自ら訴訟提起することができることになります。また,第二段目の手続きにおいて届出しなかった消費者についても判決の効力は及ばないので,別途,自ら訴訟提起することが可能です。

 

 

本件の場合,旅費や宿泊費といった部分については特定消費者的各団体の請求が退けられています(一部認容)。

 

一方、受験に伴う旅費や宿泊費については「個別の事情に相当程度立ち入って審理せざるをえない面があり書面だけで判断することは難しい」として認めませんでした。

 

 

このような場合,第二段目の手続に入って届出した債権者については請求棄却部分についても効力が及ぶものと考えられています。

そうすると,今回請求が退けられた部分についてなお請求を求めたいと考える消費者については,届出をせずに別途訴訟提起するということが考えられます。

 

 

消費者団体が被害者に代わって裁判を起こすことができる制度は4年前に新たに設けられ、判決が言い渡されるのは今回が初めてです。

 

もっもと,消費者裁判手続き特例法により判決が下されるのは今回が初めてということで,今後,本件を巡ってもいろいろな解釈や運用がされるものであろうと考えられます。