判例タイムズ1513号で紹介された裁判例です(東京高裁令和4年7月14日決定)。
本件は,甲が労働契約上の地位にあることを仮に定めることなとを求める仮処分の事案ですが,そもそも労働契約が成立したかどうか自体に争いがあり,裁判所は,両者の間では、労働契約の締結に向けた交渉の過程で、賃金の額について合意できず、結局が就労するに至らなかったのであって、本件全資料によっても、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと」(労働契約法6条)についての合意があったとは認められないとして,労働契約の成立を否定しました。
本件では求人サイトを通じて応募してきた甲に対し会社から採用内定通知書が交付されており,労働契約が成立したと評価しても良さそうな気もしますが,その後,甲は,会社に対し,採用内定通知書記載の月額総支給額40万円に45時間相応分の時間外手当が含まれるか否かについて確認するとともに,労働契約書等の交付を受け、その内容等について説明されたが、労働契約書に署名押印して会社に提出することなく、これを持ち帰っており,会社は,甲に対し,ショートメールで、①内定通知の条件とおりであること、②内定通知の内容で就労が難しいならば辞退を申し出てほしいこと、③そのうえで固定残業代を含まず基本給の希望等があるならば再度選考を行うことを伝えていました。
その後もやり取りを経て,甲は、会社に来社し、前記交付された労働契約書の内容に関し、業務内容の「その他付随する業務」、月給の「302,237円」、退職金の「無」の記載を二重線と訂正印で削除するとともに、月給欄に「400,000円」と加筆したものに署名押印して提出したのに対し,会社側は、甲に対し、労働契約書の修正理由等を確認したうえ、帰宅するよう伝え,さらに,甲に対し、会社が提示した給与条件について甲が了承できない以上、労働契約は締結されていない状態にあるという会社の認識及び会社が甲に提示した労働条件に基づく雇用契約の申込みを撤回する旨をメールで伝えたという経緯でした。
本件採用内定通知書記載の労働条件による労働契約の成否について,裁判所は,甲は、本件採用内定通知書の交付を受けた後、本件採用内定通知書の月額総支給額40万円に45時間相当の時間外手当が含まれるか否かを問い合わせ、月給30万2237円、時間外勤務手当9万7763円(時間外労働45時間に相当するもの)と記載された労働契約書に署名押印して提出せず、会社側からの複数回にわたる本件採用内定通知書の条件によることを承諾するか否かという趣旨の問い合わせに回答することなく、入社予定日に労働契約書の月給「302,237円」等を削除し、「400,000円」と加筆した労働契約書を債務者に提出したことからすれば、会社側が甲に提示した労働条件に基づく雇用契約の申込みを撤回するとメールで伝えるまでの間に、甲が会社に対し本件採用内定通知書に対する承諾の意思表示をしたと認めることはできないとし,両者の間に本件採用内定通知書記載の労働条件による労働契約が成立したと認めることはできないと判断しています。