判例時報2265号などで紹介された最高裁判決です(最高裁平成27年10月3日判決)。

 

 

本件は、証券会社(上告人)の従業員(被上告人)が解雇無効とともに業績連動型部分の報酬の支払いを求めたという事案です。

 

 

原審(高裁)が、本件労働契約が存続している限り、上告人は、被上告人に対し、本件労働契約に基づく賃金の一部として、基本給に加え、被上告人の業績に応じた額のIPC報酬を支払う義務を負うというべきであるところ、上告人が被上告人に対してその業績に応じて支払うべき平成20年度分のIPC報酬の額は、被上告人の上司であった者が仮に推薦したとすれば具申したであろうとする米ドル建ての金額を換算した1046万9000円が相当であるとして、業績連動型の報酬部分に付き一部認容したのに対し、最高裁は次のとおり説示して、判断を覆しています。

 

 

 ・本件労働契約において、IPC報酬については、固定額が毎月支給される基本給とは別に、年単位で、会社及び従業員個人の業績等の諸要素を勘案して上告人の裁量により支給の有無及びその金額が決定されるものと解されるから、その具体的な請求権は、被上告人が当該契約においてその支給を受け得る資格を有していることから直ちに発生するものではなく、当該年度分の支給の実施及び具体的な支給額又は算定方法についての使用者の決定又は労使間の合意若しくは労使慣行があって初めて発生するものというべきである(最高裁平成一七年(受)第二〇四四号同一九年一二月一八日第三小法廷判決・裁判集民事二二六号五三九頁参照)。

 ・しかるところ、上告人において被上告人につき平成二〇年度分のIPC報酬の支給の実施及び具体的な支給額又はその算定方法に係る決定はされておらず、また、これについての労使間の合意や労使慣行が存在したともうかがわれない。
・以上に鑑みると、被上告人の平成20年度分のIPC報酬については、その支給を求め得る具体的な請求権が発生しているとはいえないから、被上告人は上告人に対しこれを賃金の一部として請求することはできないというべきである。