最高裁令和5年2月1日決定(金融・商事判例1675号など)
破産管財人が、その管理する不動産につき、任意売却を検討し、抵当権者である金融機関との間でその受戻しについて交渉をしたが、任意売却の見込みが立たず、金融機関に対し、破産財団から放棄する予定である旨の破産規則56条後段所定の通知をした上で、書面により、破産裁判所の許可を得て破産財団から放棄した旨の通知をし,本件破産管財人は、本件交渉、本件事前通知及び本件放棄通知をするに際し、金融機関に対して各被担保債権が存在する旨の認識を表示していました。
その後,破産財団から放棄された不動産につき改めて競売がなされ,その際,債務者が,破産管財人には債務の承認をする権限はなく,時効の中断効も生じないから,被担保債権の消滅時効が成立したと主張されたものです。
【判旨】
破産管財人は、その職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権限を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものである(同法44条参照)。破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について上記別除権を有する者との間で交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に上記の者に対してその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、これらに際し、破産管財人が上記の者に対して上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるものであり、上記権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為ということができる。
そうすると、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。
債務者側が判例違反として主張したのが大審院時代のある古い判例(昭和3年10月19日判決)でしたが,本件とは事案を異にしているとして退けられています。