家庭の法と裁判45号、判例タイムズ1509号などで紹介された最高裁判例です(最高裁令和4年12月26日決定)。

 

 

 

本件は、妻が夫に対して離婚を請求するとともに財産分与の申立をし、夫も反訴として同様の請求を行ったという事案です。妻は分与を求める財産として、婚姻後に夫婦が共同して出資した医療法人の持分についても分与を求めていました。

 

 

控訴審判決は、本件出資持分は当事者双方が婚姻中にその協力によって得た財産に当たるとしながらも、医療法人が妻に対して財産の横領等を理由に1億5767万円余の損害賠償を求める訴訟が係属中であること等に照らせば、本件出資持分については、現時点で、妻の医療法人に対する貢献度を直ちに推し量り、財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情があるから、財産分与についての裁判をすることは相当ではないとして、出資持分を除いたその余の財産についてのみ、財産分与についての裁判をしました。


 

これに対し、最高裁は、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないものと解するのが相当であるとしています。

理由として次の通り説示しています。

・民法は、協議上の離婚に伴う財産分与につき、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができると規定し(768条2項本文)、この場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めると規定している(同条3項)。そして、これらの規定は、裁判上の離婚について準用されるところ(同法771条)、人事訴訟法32条1項は、裁判所は、申立てにより、離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、財産の分与に関する処分についての裁判をしなければならないと規定している。このような民法768条3項及び人事訴訟法32条1項の文言からすれば、これらの規定は、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合には、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の全部につき財産分与についての裁判がされることを予定しているものというべきであり、民法、人事訴訟法その他の法令中には、上記財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しない。
・また、離婚に伴う財産分与の制度は、当事者双方が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配すること等を目的とするものであり、財産分与については、できる限り速やかな解決が求められるものである(民法768条2項ただし書参照)。そして、人事訴訟法32条1項は、家庭裁判所が審判を行うべき事項とされている財産分与につき、手続の経済と当事者の便宜とを考慮して、離婚請求に附帯して申し立てることを認め、両者を同一の訴訟手続内で審理判断し、同時に解決することができるようにしている。そうすると、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、裁判所が財産分与についての裁判をしないことは、財産分与の制度や同項の趣旨にも沿わないものというべきである。