判例タイムズ1507号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和4年5月25日判決)。
本件は,JAFが,会員に対して起こした訴訟で,JAFのロードサービスは商用目的では利用できないにもかかわらず、被告個人ら(中古車のオークション事業や自動車の修理等の事業を営んでいた。)が,会員資格を利用して商用利用ではなく私的利用であると装ってロードサービスを無償利用したとして損害賠償請求をしたという事案です。
本件の争点の一つは,本件の利用時においては,JAFの約款や会員規則において、ロードサービスの具体的な利用方法が定められておらず、本件無償利用時には商用目的でロードサービスを禁止する旨の規定は存在しなかったことから,被告個人らの利用が違法であったといえるのかということでした。なお,本件後に商用目的での利用が規定に追加され現在では明文化されているとのことです。
この点について,判決は。①JAFは、交通知識の向上と交通安全並びに環境改善の推進を図り、自動車ユーザーの権益を擁護し、かつ各種便宜を提供するとともにあわせて自動車を通じて国際親善と自動車スポーツの健全な発展に努め、もって公共の福祉に寄与することを目的とする一般社団法人であり、定款において、上記目的を達成するため、故障車、事故車等の救援及び移動並びに道路巡回(ロードサービス)事業を行うこととされていること②JAFは、全国236か所以上の直営拠点と1393か所以上の指定工場を配置し、平成23年時点で、会員数は1733万人、ロードサービスの件数は258万件(会員1人当たり1年平均0.148件)、平成29年時点で、会員数は1918万人、ロードサービスの件数は238万件(会員1人当たり1年平均0.124件)であること③JAFの一般会員(個人会員)の入会金は2000円、年会費は4000円であるところ、個人会員がロードサービスの提供を受ける場合、回数は無制限で、基本料が無料、作業料が1時間を工数1として工数0.5までは無料、けん引料が15kmまでは無料であるが、非会員が原告のロードサービスを利用する場合の料金は、基本料が8000円又は1万円、搬送距離が1kmあたり700円(なお、平成26年4月の改定後は、基本料が8230円又は1万0290円、搬送距離が1kmあたり720円に増額された。)であり、大阪府内を出動場所として原告と同種のロードサービスを提供する民間業者6社の搬送料金は、基本料金が1万1500円から2万円、搬送距離が1kmあたり500円から880円であること(前提事実(5)、認定事実(3))、④ 原告の内部資料であるロードサービスマニュアルには、受付業務の基本として、ロードサービスの救援出動依頼のほとんどは、利用客の思いがけないトラブル(故障・事故など)を理由とするものであり、利用客の安全を確保し、親切丁寧かつスピーディーに対応することが求められることが記載されていることを指摘して
JAFが公益目的の法人であり、その目的を実現するために、車両の走行中などに発生した偶発的な事故や車の故障に対応するためのサービスとして全国各地を対象としてロードサービスを提供しており、これを維持するために、会費を入会金2000円、年会費4000円と、他の民間業者が提供する同種のロードサービスの価格に比して廉価に設定し、かつ利用回数に制限なく、ロードサービスの提供を受けることを可能とし、いわば相互扶助の制度を設けているのである。、実際に、会員の利用実績も、会員1名当たり、平成23年当時、1年当たり1回を大きく下回るものであったことから,そのロードサービスは、相互扶助の制度として、走行中に発生した偶発的な事故や故障等に対応するために、廉価でサービスを提供することを目的としているものであって、会員が自己の事業のために利用することを想定していないことは明らかであるとし,JAFの会員が商用利用でそのロードサービスの提供を受けることは、JAFの目的やロードサービスの趣旨に反し、許されないというべきであると判断しています。
また,本件当時,商用理由禁止の規定がなく,また,JAFにおいて商用利用の禁止について注意喚起をしたことがなかったことから,被告らが商用利用の禁止について認識できたかということについて,被告らの利用の仕方(オークションで取得した走行可能な車両を事故で動けないと虚偽申告して搬送させていたりしていた)などから,被告らの責任を肯定しています。
その上で,一部を除いて商用利用であったと認定して損害賠償を命じていますが,JAFについても,商用利用を防止するための措置を講じず、漫然と商用利用をさせていたのであるから、その過失は相当程度大きいというべきであり、5割の過失相殺をするのが相当であると説示されています。