俳優のピエール瀧さんが有罪判決を受けたことを理由に、出演映画への助成金交付を取り消したのは違法として、映画製作会社が文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)に交付を求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(尾島明裁判長)は19日、弁論期日を10月13日に指定した。結論を変更する際に必要な弁論を開くため、不交付を適法とした2審・東京高裁判決(2022年3月)を見直す可能性がある。

(7月19日毎日新聞から一部引用)

 

先日逮捕された市川猿之助の件でもそうですが,芸能人が逮捕されたりした場合に,出演作品が見られなくなるなどの措置が取られ,作品とは関係がないとして度々議論が起こるところです。

 

 

本件は,逮捕されたピエール瀧が出演していた映画を対象とした助成金支出の可否という問題ですが,根本的には,問題を起こした芸能人と作品との関係をどう考えるのかという点では共通しているものだと思います。

 

 

第一審判決

出演者が薬物事案により検挙された場合に映画製作会社が申請した助成金取消の是非 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 本件映画を対象として本件助成金を交付するとすれば,「国は薬物乱用に対し寛容である。」,「違法薬物を使用した犯罪者であっても国は大目に見てくれる。」という誤ったメッセージを被告が発信したと受け取られ,その結果,違法薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれがあるという主張に対し,第一審判決は,次のとおり説示しました。

 

観客等が麻薬取締法違反により有罪となった本件出演者が出演している本件映画に対し,本件助成金の交付決定がされたことを認識することによって,これらの観客等に被告が上記アのような誤ったメッセージを世の中に発信したと受け取られ,その結果,違法薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれがあると認めることはできないとしました。

 

 

これに対し,控訴審判決(東京高裁令和4年3月3日 判例タイムズ1505号など)は,次のとおり判断しています。

 

薬物の使用については,麻薬取締法その他の法令により刑罰規定をもって禁止され,現に,これらの法令に違反する行為については厳正な処罰の対象とされている上,厚生労働省等により薬物乱用の根絶に向けた啓発活動が強化され,そのための様々な取組が実施されているものの依然として深刻な社会問題となっている。このような状況下において,控訴人理事長が,本件出演者が本件内定後に麻薬取締法違反の罪により有罪判決を受け,同判決が確定したという事実を踏まえて,薬物乱用の防止という公益の観点から,国民から徴収された税金を原資とする本件助成金を本件映画に交付しないとする決定をしたからといって,重要な事実の基礎を欠いているとか,その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いているということはできない。

かえって,上記の状況下において,本件映画に本件助成金を交付すれば,控訴人が主張するとおり,観客等に対し,「国は薬物犯罪に寛容である」,「違法薬物を使用した犯罪者であっても国は大目に見てくれる」という誤ったメッセージを控訴人が発したと受け取られ,薬物に対する許容的な態度が一般的に広まり,ひいては,控訴人が行う助成制度への国民の理解を損なうおそれがあるというべきである。

 

 

控訴審の判断に対し最高裁が結論を変更する可能性が出てきたということですが,私としては第一審判決の説示の方が分かりやすいのではないのかなと思います。