金融・商事判例1667号で紹介された裁判例です(福岡高裁令和4年12月27日判決)。

 

 

本件は、株式会社の株主グループとしてABCのグループがあり,それまでAグループから選任され代表取締役を務めていたAにつき,BとCが結びついて,株主総会でA取締役に選任せずにBほかを選任した上で,Bが代表取締役となったという経緯において,退任したAが自分の役員退職異論金が支給されなかったことについて,Bがその旨の議題を総会の議題として付議しなかったためであると主張し,退職慰労金相当額の損害賠償を求めたというものです。

 

 

役員の退職慰労金は、一般的には、株主総会で決議されて初めて権利として発生するもので、株主総会で決議されていない以上権利として発生していないことは明らかであるため,その一つ手前である総会への議題に上程しなかったことをとして捉えて責任追及したということになります。

 

 

感覚的には,何を株主総会の議題とするかについては取締役会,代表取締役の裁量に委ねられているように思われ,なかなか厳しい主張なのではないかという気がしますが,第一審判決が請求棄却したのに対し,控訴審判決では,次のような事情を指摘して,本件においては,Aと会社との間には,役員退職慰労金を支給する旨の黙示の特約があったと認められ,BにはAの退職慰労金支給を議題として付議すべきことを取締役会で決定すべき義務があったのにこれを怠ったとして,Aの主張を認めました。

・Aの選任時における会社との委任契約において退職慰労金を支給するるとの明示の特約はなかったが,その当時,既に会社には退職慰労金の支給計算方法などを定めた規定が存在しており,ほぼすべての役員について総会決議を経て退職慰労金が支給されていた。

・Aが会社の取締役に就任した経緯として,祖父らの要請があって当時勤めていた大手企業を退職し,入社と同時に取締役となったもので,従業員としての退職金の支給を受けたことはなかった。

 

 

なお,Bは,総会前にAがBの顔面を平手で押す暴行を加え,その際に事務室の窓にひびが入ったりしたことがあり,そのほか従業員に対するパワハラや経営の悪化といった事情があり,Aの退職慰労金を総会に付議すべきではない事情があったと主張ししたが,暴行については警察官が臨場したものの最終的には不起訴となっていることから,役員としての功労を否定すべき事情とはならない,従業員に対するパワハラについては反対尋問を経ない陳述書があるに過ぎないこと,業績の悪化つにいても専らAの責任に起因するものとまではいえないことなどを指摘して,Aの退職慰労金を総会に付議すべきではないことを正当化すべき事情とまではいえないとしています。

 

 

ただ,株主の構成がAに敵対するBCが多数という状況において,仮にAの退職慰労金を付議したところで否決されるので損害との間に相当因果関係を欠くのではないかという点については,判決も,総会では否決されると考えられるとしつつ,本件のような極めて閉鎖的な会社において,会社が前記のような黙示の特約の義務を負っている以上は,義務の履行について相反する行動をとるべきではないと指摘し,付議されたたAの退職慰労金支給の議題について支給すべきとの列をすべきであるとして相当因果関係を肯定しています。

 

 

その上で,本件での事情を総合して,Aの退職慰労金は1000万円を下回ることはないとしてこれに弁護士費用相当額を加えた1100万円の支払いをBに命じています。

 

 

慰謝料というのならともかく,相当因果関係についての判断も含めてどこなく違和感を感じる理屈ではあるのですが,とりあえず事例判決として紹介しておきたいと思います。