判例タイムズ1507号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和4年12月23日判決)。
本件は、現行犯逮捕され警察官による取調べを受けていた原告が、その警察官に対し、当番弁護士の派遣を要請したにも関わらず、警察官が弁護士会に通知することを怠り、弁護人選任権が侵害されたとして損害賠償(国賠)請求したという事案です。
本件の経緯の概要は次のとおりです。
・原告は、令和元年10月31日(木曜日)午前11時59分頃、通報を受けて到着した警察官により建造物侵入の被疑事実で現行犯逮捕された。
・原告は、A警察署に引致され、B巡査部長による弁解録取手続を受けた。B巡査部長が、被疑事実を読み聞かせ、弁解の機会を与えたところ、原告は、B巡査部長に対し、前記アの建物に立ち入った事実自体は認めた上で、犯意を否認するとともに、当番弁護士に連絡するよう要請し、その弁護士と相談するなどと述べた。
・B巡査部長は、弁解録取手続終了後、取調室を退室し、捜査主任官であるD警部補に対し、原告が当番弁護士の派遣を要請している旨を報告した。警察の捜査主任官は、被疑者が当番弁護士の派遣を要請している旨の報告を受けた場合には、直ちにその旨を留置主任官に引き継ぐことになっていたが、D警部補は、原告による当番弁護士の派遣要請を留置主任官に引き継ぐことを失念した。
・取調終了後、A警察署の留置担当者に対し、当番弁護士の派遣要請をしているか確認したところ、派遣要請がされていないことが判明した。
・A警察署の留置担当者は、同日午後6時30分ないし午後7時19分頃、原告への当番弁護士の派遣を要請するため弁護士会に電話をかけたが、午後5時から翌日午前9時30分までは時間外のため、弁護士会の電話が留守番電話に切り替わったことから、原告が当番弁護士の派遣を希望している旨のメッセージを残した。
・弁護士会は、同年11月1日(金曜日)午前10時23分頃、私選紹介(刑事当番)弁護士依頼メモにより、同会所属のC弁護士に原告との接見を要請した。
・原告は、同日午前7時40分頃、A警察署の留置担当者に対し、D弁護士に連絡するよう要望したところ、留置担当者は、同弁護士の所属する弁護士事務所に電話をかけ、原告の要望を伝えた。同事務所に所属するE弁護士は、同日午前10時30分頃、A警察署において原告と接見した。
・原告は、同日午後0時55分頃、検察庁に送致され、勾留請求された。C弁護士は、同日午後3時頃、同検察庁において原告と接見し、E弁護士も、その後、同検察庁において原告と接見した。
・その後、原告の勾留請求が却下され、原告は、同日午後6時2分、釈放された。
裁判所は、原告が遅くとも令和元年10月31日午後1時15分頃までに当番弁護士の派遣要請をし、D警部補は、その頃、その旨の報告を受けたのに、留置主任官に対して、原告から当番弁護士の派遣要請があった旨を引き継ぐことを失念したため、弁護士会に上記派遣要請が通知されたのは早くとも同日午後6時30分となったのであるから、警察官は、過失により、逮捕された被疑者から当番弁護士の派遣要請を受けた警察の警察官はできる限り速やかに弁護士会にその旨を通知する義務前に反し、原告の弁護人選任権を侵害したものといえると判断しています。