判例タイムズ1506号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和4年4月15日判決)。

 

 

本件は,自宅で転倒し大腿骨を骨折した高齢者が緊急搬送を受けた病院において,脳梗塞であることが判明し,入院中に脳梗塞には禁忌である薬剤を投与されたことにより出血性ショックにより死亡し,遺族が病院や担当医師らを訴えたという事案です。

 

 

患者が禁忌である薬剤の投与により死亡したこと自体については争いがなく,争点は,死亡診断書に出血性ショックと記載せずに「直接死因は脳梗塞〔発症から1日〕」と記載したこと,医師法の規定に基づいて警察署に届出をしなかったこと一連の行為が,医療過誤の被害に遭った患者の遺族である原告らが有する「死亡の経過及び原因の説明を診療を行った医師に対して求める患者の遺族の側の心情ないし要求」という保護された権利を違法に侵害するもので、不法行為に該当するとの遺族側の主張の当否でした。

 

 

医師法

第21条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

 

本件で死亡診断書を書いたのは,被告とされた整形外科の医師でしたが,判決は,死亡原因(直接死因)に出血性ショック、その原因として血栓溶解療法や第2回手術、脳梗塞等を記載することも検討できたといえるとしつつ,専門分野は整形外科であり、本件投与を含めた脳梗塞に対する治療は、基本的に脳神経外科の被告医師を中心に実施されたものであり、整形外科の医師は、少なくとも死亡診断書を記載した時点では、本件投与が禁忌であったことを認識していないこと、脳梗塞の治療に関連して生じた事態であり、本件投与後の状態の悪化に脳梗塞が影響していないとは言い難いことなどを踏まえれば、整形外科医師が死亡診断書に脳梗塞と記載をしてはならないとまでは認め難いとしました。
 

 

異状死の届出に関しては,異状死として届け出ることも検討し得たとは認められるとしつつ,本件において、外表上、創部からの出血が認められるとしても、脳梗塞の治療として本件投与を実施した結果、創部からの出血が生じたなどの経緯のほか、整形外科の医師は本件患者の遺体を見てはいるが、これをもって「検案した」、すなわち、死因等を判定するために死亡後の本件患者の外表を検査したといえるかについても検討の余地があること(医師法20条ただし書参照)、医師らが、原告らから本件患者の死因等についての説明を求められたにもかかわらず、これを拒んだり、あえて誤った説明をしたなどの事実は見当たらないことなどを踏まえれば、本件患者の状態につき、異状があると認めなければならない、異状死として届け出なければならない法的義務を負うとまでは直ちには認め難いと説示しています。