判例タイムズ1506号で紹介された裁判例です(福岡地裁久留米支部令和4年6月24日判決)。

 


本件は体育の授業中でサッカーを行っていた際に,小学4年生の児童がフットサルゴールポストの下敷きとなって死亡したという事故が発生し,遺族が国賠請求をしたという事案です。

 

 

判決は,本件ゴールポストのようなゴールポストが転倒しないよう配慮することや、ゴールポストの固定状況について点検を実施すること、ゴールポストを含む学校の施設・設備・備品・用具等について、継続的・計画的に安全点検をすることが重要であることが指摘されており、平成25年5月28日には、本件事故と同様のゴールポスト転倒による死亡事故が生じており、文部科学省は、上記各指摘を資料として添付しつつ、施設設備等の点検や事故防止のための措置に十分に留意することなどを通知しており,本件小学校の校長は、上記の死亡事故や文部科学省からの通知について認識していたことから,本件事故当時の本件ゴールポストの固定状況について正確に把握していなかったとしても、本件事故の発生について容易に予見できたといえるとし,事故防止のために,本件小学校の安全点検担当教員や点検担当の教員をして、本件ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておくべき注意義務があったのにこれを怠ったとして,過失を肯定しています。

 

 

本件の事故は,亡くなった児童が,味方がゴールを決めたことに喜び、運動場に設置されていた自陣の本件ゴールポスト(幅約3.0m、高さ約1.99m、奥行き約1.15m、重さ68.1kgの鉄製のもの。)の上部から垂れ下がったゴールネットのロープにぶら下がったところ、ゴールポストが倒れてその下敷きになったというものでしたが,これを過失相殺として考慮貨べきかについて,判決は,児童の行為が本件ゴールポストの通常の使用方法を逸脱したものであったことは否定できないところであるとしつつ,本件小学校の教員は、本件校長を除き、千葉県立高校でのサッカーゴール転倒の事故やその後の文部科学省の通知について把握しておらず、本件ゴールポストを除く3台のフットサルゴールが直接杭で固定されていたこともあり、ゴールポストが危険で不安定であるという認識がなく,ゴールポスト転倒の危険性について、児童に教えることもなかったことから,教員ですら、サッカーゴールのゴールポストが危険であるという認識を持っていなかったもので,ましてや、ゴールポストが危険であるという指導を受けていない、本件児童を含む本件小学校の4年生の児童が、本件ゴールポストが転倒するといった危険性を認識していたとは到底考えられず,亡くなった児童につき過失相殺を認めることは、上記指導を行わなかった教員らとの関係において却って公平さを欠くこと,本件ゴールポストは、破れたゴールネットを固定するためのロープが、クロスバー部分から下方に弛んだ状態になっていたところ、サッカーの試合中に、味方がゴールを決めたことに喜んで上記ロープにぶら下がること自体、突発的な行為であって、小学校4年生の児童にとってそもそも非難し得る程度の低いものであるといえることを指摘し,当時小学校4年生の児童であり、ゴールポスト転倒の危険性について何ら指導を受けていなかった本件児童において、本件ゴールポストのロープにぶら下がることの危険性を認識できたとはいえないし、行為の性質としても非難し得る程度は低いといえるから、亡くなった児童について,損害賠償額を定める上で公平の見地から斟酌しなければならないほどの不注意があったとはいえず,安全点検を徹底する義務を負っているのに、定期的な安全点検と授業前の安全点検をともに履践せず、本件ゴールポストについて必要な固定措置が取られていないことを見逃したという学校の過失の重大性に鑑みて,過失相殺を否定しています。

 

 

 

 

県立高校のテニスの部活中の熱中症で重篤な後遺症が残った事故についての裁判例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)