判例タイムズ1506号で紹介された最高裁決定です(最高裁令和2年12月7日決定)。

 

 

本件は,被告人が殺人などの罪責に問われたという刑事事件ですが,被告人の主張は,被害者に「一緒に死のう」などと言われて一緒に死のうと考え,被害者を殺害したが,被告人だけが死ねなかったというものでしたが(被害者による殺人の嘱託があったことなどを理由とする嘱託殺人に留まるとの主張),裁判所は,被害者には死ぬつもりがなく,被害者が被告人に対して「一緒に死のう」などと言った事実もないから,被害者による殺人の嘱託はなく,被告人がそのような嘱託があると誤信した可能性もないと判断して,被告人に殺人罪が成立すると認定判断しました。

 

 

本件で争点の一つとなったことが,自首の成否でした。

 

 

刑法
(自首等)
第42条1項
 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。

 

 

 
被告人は,嘱託を受けて被害者を殺害した旨を記載したメモを遺体のそばに置いた状態で,自宅の外から警察署に電話をかけ,自宅に遺体があり,そのそばにあるメモを見れば経緯が分かる旨伝えるとともに,自宅の住所を告げ,その後,警察署において,警察官に対しても,嘱託を受けて被害者を殺害した旨の供述をしていましたが,前記のとおり,嘱託を受けた殺害したという主張は虚偽であり,このような虚偽の内容による申告であったとしても自首に該当するといえるかが問題となりました。
最高裁は,被告人は,嘱託を受けた事実がないのに,嘱託を受けて被害者を殺害したと事実を偽って申告しており,自己の犯罪事実を申告したものということはできないから,刑法42条1項の自首は成立しないというべきであると説示しています。

 

 

第一審判決は,「なるほど,被告人が自ら警察署に連絡したことにより,捜査機関に真犯人を速やかに知らしめ,捜査や処罰を容易ならしめた面がないとはいえない。しかしながら,被告人は,自首する以前から公判廷に至るまで,一貫して,被害者に「一緒に死のう」などと言われてその嘱託を受けて殺害した旨供述し,その犯行動機や犯行に至る経緯等の重要な部分について,事実と大きく異なる供述をし続けている。この点を踏まえると,被告人の当該虚偽の供述によって必要な捜査等の範囲が無用に拡大したことがうかがわれる。また,被害者による嘱託を受けて殺害したか否かという点は,人を殺害するという事案の中で,重大な差異を捉えて区別されている嘱託殺人罪と殺人罪という成立罪名の違いを生じさせる上,被告人に対する刑の量定に大きく影響する事実でもある。」として自首の成立を否定しており,これを肯定した高裁判決を最高裁としても是認したということになります。