家庭の法と裁判43号で紹介された事例です(東京高裁令和3年5月26日決定)。

 

 

強制執行は債務名義に基づいて行われますが、通常,強制執行を止めたいという場合には,請求異議の訴えという裁判を起こすとともに(民執法35条),執行の一時的な停止を求めることになります(同法36条)。

本件は養育費の支払について強制執行可能な公正証書(債務名義)で取り決められていたものについて,債務者側がその執行の停止を求めたというものです。

公正証書によ基づく強制執行の停止についても,通常は,請求異議の訴え(なお,公正証書は判決ではないので,その成立時の事情なども含めて有効性を争うことができます)を提起するとともに強制執行の停止を求め,最終的には強制執行の不許を求めていくという争い方が一般的です。

 

民事執行法

(請求異議の訴え)
第35条 
債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。

 

他方,本件の特殊性としては,公正証書で取り決められていた金銭債務が養育費であり,養育費の減額については,家庭裁判所に対する養育費減額の調停や審判を求めるというのが通常です。

 

 

本件で夫側は,家庭裁判所に対して養育費減額の審判を求めるとともに,審判前の全処分(家事事件手続法157条1項)に基づく「その他必要な保全処分」として強制執行の停止を求めたのですが,家裁は,前記のとおり通常の強制執行停止を求めるルートである請求異議の訴えとそれに伴う強制執行停止の手続がある以上,家事事件手続法に基づいて保全の処分を行う必要性がないとして却下しました。

 

 

家事事件手続法

(婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分)

第157条第1項 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、次に掲げる事項についての審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、当該事項についての審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

 子の監護に関する処分

 

抗告審(高裁)では,養育費の減額を求める場合には,養育費減額の調停なり審判なりを求めるのが通常であって,請求異議の訴えという方法も存在するとしても,養育費については家庭裁判所で判断するのが相当であること,請求異議の訴えの提起を要するとすることは義務者にとつて過度な負担であることなどを指摘し,審判前の全処分(家事事件手続法157条1項)に基づく強制執行停止についても手続きとしては認められるとした上で,妻側の代理人弁護士から強制執行する旨を通知されている本件において,養育費減額の蓋然性が認められるかどうか改めて判断するように審理を差し戻しています。