家庭の法と裁判43号で紹介された事例です(大阪高裁令和4年2月24日決定)。

 

 

本件は、別居中の妻が(夫と前妻の知的障害のある養子縁組した子を含め4人の子を監護),開業医である夫に対して婚姻費用分担金の支払を求めたという事案です。

 

 

家庭裁判所で用いられる算定表(標準算定方式 夫婦の各総収入から、標準的な割合による公租公課や職業費、特別経費を差し引き、生活保護基準などから推計される生活費指数を各世帯で按分した上で、権利者世帯に割り振られる基礎収入額からその基礎収入を控除して義務者の負担すべき額を算出する)は、自営業者では総収入が1567万円までしか算定されておらず(給与所得者の場合は2000万円まで)、本件では夫の総収入が家裁では約6000万円、高裁では約7500万円と認定され、算定表が想定している総収入を大きく超えたため、このような場合の婚姻費用分担額の算定のあり方が問題となりました。

 

 

一つの考え方としては、算定表は、あくまでもその収入であれば、標準的に想定される各世帯の生活費にかかる金額を想定して、権利者義務者の収入において生活費に充てられるべき基礎収入から不足する金額を婚姻費用とするというもので、あくまでも標準的な家庭を想定しているものであるから、本件のような高額収入の事案では、算定表の考え方は度外視して算定するというものがあり、本件原審(家裁)はこのような考え方のもと、同居時の生活水準や生活費支出状況,別居後の家計収支及び生活状況等の諸般の事情を踏まえて婚姻費用の分担額を定めました(月額85万円と算定)。

 

 

もう一つの考え方として,標準算定方式は維持しつつ,何らかの修正は加えるというもので,この中でもいくつかの考え方があり,例えば,算定表の上限を超える部分については貯蓄(資産形成)に充てられるとみて,その部分については財産分与として考慮するという考え方があります。

その他,高額所得を得ている義務者の基礎収入(生活費に充てられるべき収入)を何らかの形で修正する,高額所得を得ている家庭であれば,標準的な家計と比較して生活費に充てられる収入部分が相応に増えるであろうという考え方があります。

本件高裁においては,標準算定方式維持した上で,夫の基礎収入について,その総収入から控除する税金や社会保険料,職業費及び特別経費について,事業収入の特殊性を踏まえた数値を用い(職業費について実収入費13.35パーセント,特別経費について同13.67パーセントと認定 年収2000万円以上を区分して集計した統計はなく,家計調査年報の収入階級区分の数値を踏まえてて近似値を採用するほかないとしています),更に一定の貯蓄分を控除して(貯蓄率を26パーセントと認定 貯蓄率について高額所得者の収入に応じた統計があるわけではなく全収入区分の貯蓄率である19.8パーセントや同種事案の裁判例等を踏まえて認定)婚姻費用分担額を算定した事例

 

 

 

夫が高額所得者(年収1億5000万円超)である場合の婚姻費用分担金額の決定の一事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

算定表の上限を超える年収がある場合における別居夫婦間の婚姻費用算定をした事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)