家庭の法と裁判43号で紹介された事例です(東京高裁令和4年8月18日決定)

 

 

本件は、別居中の夫婦間において,妻(母親)が,夫(父親)に対し,子2人との面会交流を求めたという事案です。

本件では、子のうち、特に小学校中学年から高学年に差し掛かる長女の精神状況との関係で、間接交流に留めた方がよいのか、直接交流とした方が良いのかが問題となりました。

 

 

本件では、母親が二女を出生後、産後うつや出産育児に伴うストレスなどによって躁うつ状態となってしまい、泣きながら「死にたい」と言ったりするなどしたため、入院の後、実家に退院して、父親・子どもたちとの別居となり、母親からの面会交流の申立てにより、支援センターの援助による面会交流を行うことが調停で取り決められ、実施されましたが、長女の精神状態などを考慮して中断されていました。

 

 

母親の精神不安定な状況を幼い時期に目の当たりにした長女も、精神的に不安定となり(母親の言動に影響されたと思われ,母親や自分が死ぬことに言及したりするなど不安定な言動がみられるようになってしまったということです。)、長女の主治医の意見としては、長女は母親と会いたいと思っているものの、現在はその準備段階にあり、直接交流は刺激が強いので手紙のやり取りなどの間接交流を継続していくことが望ましく、その安定した状況が続くのであれば直接交流してよいといえるのではないかとの意見を述べていました。

 

 

そのため、原審(家裁)は、母親と子供たちのとの面会交流を間接交流(手紙やプレゼント、写真のやり取りなど)とするのが相当であるとし、直接交流についての協議をするのは長女が中学生になる頃と指摘したのに対し,高裁は,長女に対する調査の実施時期や間接交流の継続的な実施状況等を踏まえ,未成年者らの意向・心情等の調査を改めて実施し,直接交流の可否や面会交流の具体的方法等を検討する必要があるとして,審理を差し戻しました。

 

 

その理由として,長女の主治医の意見や母親のこれまでの言動によって精神的に不安定となった長女の状況に鑑みて,直接の面会交流に消極的な父親の態度にも一定の理解はできるとしつつ,

・母親の精神状況については,その主治医の意見などから,安定した状況が続いており,子供の面前で健全の成長に悪影響を及ぼすような言動をする恐れがあるとはいえない。

・長女の精神状態についても,不安定な状態は減少して,母親に会いたいといって泣いたりするようになるなど,年齢と共に精神点に安定しつつあるといえる。

・母親と長女の間では,直接の面会交流が亡くなった後,手紙のやりとりなど間接的な交流が継続されている。長女は,母親に会いたいという気持ちを伝えるなど,母親に対する思慕の思いを抱いている。

・二女は,これまでも母親との交流によって不安定となったことはなく二女について面会交流を制限すべき理由はない。

・長女に対する家庭裁判所調査官による調査から期間が経過しており,長女の年齢や発育の程度,その後に実施された間接交流が長女に与えている影響等についても鑑みて,その意向をさらに適切に把握すべきである。

・二女についても同様にその心情等を調査すべき必要がある。

とっいった点を指摘して,新たな調査結果を踏まえて,試行的な面会交流の実施も積極的に検討して,その結果も踏まえて直接交流の可否などについて判断すべきであるとしています。

 

 

間接交流に留めた原審の判断を変更して直接交流を認めた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)