判例タイムズ1505号などで紹介された裁判例です(名古屋高裁令和4年3月22日決定)。

 

 

担保を立てて仮差押えをした場合,その担保の返還を受けるルートとして,実務上の多くは,相手と和解して担保の取消しに同意してもらうか勝訴判決を得て確定証明書などを付けて担保決定を取り消してもらう又は仮差押えの担保はこれにより損害を受けるかもしれない相手の損害賠償の引き当てのためですので,損害賠償請求をするように催告して一定期間内に訴訟提起がなかったことを理由として担保決定を取り消してもらうかの3つです。

 

 

(担保の取消し)
第79条1項 
担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。

 

本件は,担保を提供して仮差押え命令を受けた後,本案訴訟の係属中に債務者について破産手続が開始されたものの,届出債権の認否が行われないまま破産手続が廃止され,本案訴訟が当然終了となった場合に民事訴訟法79条1項の「担保の事由が消滅した」といえるかが問題となりました。

 

 

原審は前記したいずれのルートにも該当しないとしてこれを否定しましたが,抗告を受けた高裁は,次のとおり説示して,「担保の事由が消滅した」といえると判断しました。

 

 

本件仮差押決定により相手方の抗告人に対する損害賠償請求権が発生するのであれば,破産管財人においてその権利を行使することが可能であるにもかかわらず,そうした権利行使は一切なされていない上(本件仮差押債権は,本件仮差押決定の有無にかかわらず,国税徴収法による差押えの対象にもなっているという事情も存する。),相手方は破産手続が開始され異時廃止となったものであり,現時点では相手方が法人として権利を行使する具体的な可能性は認められないから,こうした事情の下では,相手方の抗告人に対する損害賠償請求権が発生する可能性が消滅したと同視し得る状況にあると認めるのが相当である。
 なお,保全事件で提供された担保につき「担保の事由が消滅する」との要件を満たすと認められるのは,本案訴訟につき全部勝訴判決が確定した場合が最も多いものと考えられるところ,本件本案訴訟については当然終了となっており勝訴という結果には至っていないものの,そのような経過になったのは,相手方につき破産手続が開始されて異時廃止となったことによるものであって,専ら相手側の事情に起因するものであるから,本件本案訴訟について勝訴判決に至っていないという事情をことさら重視すべきではない。