判例タイムズ1504号で紹介された最高裁判決です(最高裁令和 4年 9月 8日判決)。

 

 

本件は,ゴルフ場の用に供されている土地の固定資産税の評価についての争いです。

 

 

ゴルフ場用地の評価について、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示)は、ゴルフ場用地の評価について、

①当該ゴルフ場を開設するに当たり要した当該ゴルフ場用地の取得価額に当該ゴルフ場用地の造成費を加算した価額を基準とし、当該ゴルフ場の位置、利用状況等を考慮してその価額を求める方法によるものとする

②この場合において、取得価額及び造成費は、当該ゴルフ場用地の取得後若しくは造成後において価格事情に変動があるとき、又はその取得価額若しくは造成費が不明のときは、附近の土地の価額又は最近における造成費から評定した価額によるものとする

と定めています。

また,旧自治省」総務省の通知によると,周辺地域の大半が宅地化されているゴルフ場については近傍の宅地に比準する方法(宅地比準方式)を、それ以外のゴルフ場については開発を目的とした近傍の山林に比準する方法(山林比準方式)を挙げ,また,造成費の評定の方法として、平成30年度の土地の価格の評価替えにおいては、ゴルフ場のコースに係る全国の平均的造成費(丘陵コースにあっては840円/㎡程度、林間コースにあっては700円/㎡程度)を参考として市町村において求めた額を基礎とするが、実情に応じ、これと異なる額となることもあるとしています。

 

 

本件において,課税自治体は,山林比準方式を用いて取得価額を評定するとともに、丘陵コースの平均的造成費用いて造成費を評定した上で、平成30年1月1日における価格を合計2億0930万8435円と決定し、土地課税台帳に登録しました。

 

 

原審は, 原審は、本件各土地の造成に当たり土工事をほとんど要しないにもかかわらず丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いることは、評価基準の定める評価方法に従ったものとはいえず、本件登録価格は評価基準によって決定される価格を上回るとして、本件決定の取消請求を一部認容すべきものとしましたが,固定資産評価審査委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められるとはいえないとし,弁護士費用相当額の損害賠償(国賠)請求は棄却しました。

 

 

これに対して,本件最高裁判決では,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となるところ(判例)、当該登録価格について審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会が、評価基準の解釈適用を誤り、過大な登録価格を是認する審査の決定をしたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、上記委員会が上記審査の決定をする上において、これを構成する委員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がある場合に限り、上記評価を受けるものと解するのが相当であるとした判例(最高裁平成5年3月11日判決)を指摘した上で,

・本件決定は、本件各土地の取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定することが合理的である旨の理由によったものであり、本件各土地につき必要な土工事の程度を考慮することなく上記の額を用いて造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において、評価基準の解釈適用を誤ったものということができ,

・本件定めにおいては、評価の対象となるゴルフ場用地の造成費は、実際に要する造成費の額が不明であるなどの場合には、代替的に、最近における造成費から評定した価額によるべきものとされており、その趣旨に照らせば、平均的ないし類型的にであっても、必要な工事の程度に応じた評定が予定されているものと解すべきことは明らかであって,

・また、ゴルフ場用地の取得価額と造成費は、飽くまでも別個に評定すべきものとされており,本件定めの解釈適用に係る参考資料と位置付け得るゴルフ場通知や解説においても、ゴルフ場用地の取得価額については、周辺地域の大半が宅地化されているか否かにより、その評定の方法が決まるものとされている一方、ゴルフ場用地の造成費については、必要な土工事の程度等に応じた評定を予定していることがうかがわれる記述がみられる。

・少なくとも、これらの資料に、取得価額の評定の方法に応じて造成費の評定の方法が直ちに決まることをうかがわせる記述はみられず,このほか、本件決定が立脚した上記アの見解に沿う先例や文献等の存在もうかがわれないことから,本件決定の見解に相当の根拠はないというべきであるのに,その見解に立脚して評価基準の解釈適用を誤ったことについて、本件委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断には、国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法があると判断しています。