家庭の法と裁判41号で紹介された裁判例です(広島高裁令和4年2月25日決定)。
相続に当たって,共同相続人のうち生前の被相続人から相続分の前渡しとなるような贈与を受けていたり遺贈を受けた場合には,その分も加味して相続分を算出していくこととなっています(特別受益 民法903条1項)。
大学院の学費,留学費用等が特別受益として認められなかった事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)
民法
(特別受益者の相続分)
第903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
被相続人が保険料を支払っていた保険があり,保険金受取人として指定されており被相続人の死亡により保険金を受け取った共同相続人がいたとしても,原則として,特別受援としての考慮はされず,例外的に,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」とするのが判例です(最高裁平成16年10月29日判決)。
この判決以降,判決が示した基準に従って保険金を特別受益として例外的に考慮するかどうかについての裁判例が積み重ねられていますが,本件は否定事例の一つです。
本件は,被相続人である夫が掛けていた定期保険特約付き終身保険とがん保険の保険金(総額約2100万円)につき,法定相続人である妻と夫の実母が特別受益であるか否かを巡って争ったものです。
本件における遺産は,相続発生時の預貯金額が約772万円,その後引き出されるなどして遺産分割の対象となった預貯金額が約460万円で,判例が示した「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率」でいえば,それぞれ遺産総額に占める割合は非常に大きいものといえるといえますが,裁判所は,その他の基準である「同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情」に関して,本件保険金は夫が自分の死亡後に妻の生活保障をするために掛けていたものであったことや保険金額自体は一般的な夫婦間の保険金額としてそれほど大きなものとはいえないこと,妻は子がおらず借家住まいであり保険金により生活保障すべき期間が長期間であると言え根のに対して夫の母はその配偶者(夫の父)の遺した遺産である不動産に娘らと共に暮らしていることなどの事情を撃挙げて,本件保険金について特別受益には当たらないとの判断を下しています。