広く報道もされましたが、2回目の緊急事態宣言期間中(令和3年1月7日から,東京都については3月21日まで)の2月13日に,新型コロナウィルス特措法が改正され,各自治体が飲食店等の施設管理者に対して施設使用制限等の措置を講ずべきことを命ずることができるようになり,命令に先立つ時短営業の協力要請には従わずに営業していたため,法に基づく時短命令(命令がなされた3月18日から宣言解除までの時短営業の命令 実質4日間)がなされたことにつき、命令を受けた飲食店を経営する会社(本件原告)が、東京都に対して損害の賠償(ただ,お金が目的ではないとして請求額は104円のみ)を求めたという事案の判決です(東京地裁令和4年5月16日判決 判例時報2530号)

なお,本件飲食店経営会社は命令には従っており,命令が出されたため時短営業を強いられたことについての適法性を問う訴訟になります。

 

 

判決は,夜間の営業を継続していた2000余りの店舗中、被告が本件対象施設のほかには、わずか6施設(6事業者)に対してしか、45条3項命令を発出しなかったことをもって、本件命令は原告を狙い撃ちにした、報復ないし見せしめであり、同命令に違法な目的があったとする本件原告の主張は退けました。

 

 

しかし,特措法45条3項が、都知事が命令を発出し得る場合を、飲食店等の施設管理者が45条2項要請に応じないことに加え、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため「特に必要があると認めるとき」に限定していることから,45条3項命令は、これに違反した場合、当該違反行為をした施設管理者は過料に処せられるのであり(同法79条)、制裁規定の前提になるものであるから、その運用は、慎重なものでなければならないというべきであるとし,命令が発出されるまでの感染状況等の経緯について認定した上で,令和3年3月中旬頃には、感染再拡大の懸念はあったものの、新規感染者数が1月のピーク時に比べて大幅に減少し(減少が続いていた頃は、原告の主張のとおり、実効再生産数が1を下回っていたということができる。)、医療提供体制のひっ迫の状況も、ステージ区分がⅣ相当であったものがⅢ相当に緩和しており、政府対策本部長は、本件命令発出日の前日(同月17日)に、ステージの数字が解除の方向に入っているなどと述べて、同月21日に本件緊急事態宣言を解除する旨の方針を示していたこと,上記ステージ区分を判断するための6つの指標はあくまで目安であるがの一連の経緯によれば、政府はこれらの指標を総合的に判断したということができることなどの事情は、本件命令発出日に新型インフルエンザ等緊急事態であったかどうかの判断を左右するとはいえないものの、同命令の発出は特に必要があったと認められるかどうかの判断において、考慮要素になり得るとしました。

そして,上場企業であり知名度の高い原告が本件対象施設での夜間の営業を継続し、客の来店を促すことで、飲食につながる人の流れを増大させ、市中の感染リスクを高めており、加えて、原告が緊急事態措置に応じない旨を強く発信することにより、他の飲食店の夜間の営業継続を誘発するおそれがあったとして、感染リスクの抑制のために、本件命令の発出は特に必要があったと認められるという東京都の主張に対して,

 ・本件命令発出日の頃、都内の飲食店のうち2000余りの店舗は、営業時間短縮の協力要請に応じず夜間の営業を継続していた。こうした中、いかに上場企業であるとはいえ、上記2000余りの店舗の1%強を占めるにすぎない本件対象施設において、原告が実施していた感染防止対策の実情や、クラスター発生の危険の程度等の個別の事情の有無を確認することなく、同施設での夜間の営業継続が、ただちに飲食につながる人の流れを増大させ、市中の感染リスクを高めていたと認める根拠は見出し難い。
 ・政府対策本部長が令和3年3月17日の会見で、同月21日に本件緊急事態宣言を解除する方針である旨述べたことから、本件命令発出日(同月18日)の時点で、同宣言が3日後に解除されることにより、本件命令の効力が生じる期間は、発出日当日を含めて4日間しかないことが確定しており、東京都はこのことを当然に認識していた。その当時、1都3県を中心に感染再拡大の懸念があったとはいえ、飲食店の営業時間短縮を中心としてピンポイントで行った対策は大きな成果を上げ、同地域の新規感染者数は大幅に減少し、医療提供体制のひっ迫の状況も緩和されていた。そして、統計学に基づく分析によれば、この4日間において、本件対象施設の営業時間の短縮によって来客数が減少したことにより抑止し得た新規感染はわずかであり、これと同程度の二次感染の抑止は、少数のPCR検査を増やすだけで実現し得るものであった。こうした中、本件命令は4日間しか効力を生じないことが確定していたにもかかわらず、被告が同命令をあえて発出したことの必要性について、上記アの内閣官房の見解等において求められる合理的な説明はされておらず、また、同命令を行う判断の考え方や基準についても説明がない。
 ・本件原告が、本件緊急事態宣言がされた日(令和3年1月7日)以降、本件記事を自社のホームページに掲載し、緊急事態措置に応じない旨の意見を発信していた。しかし、本件記事は、営業時間短縮の協力要請に応じた場合、事業の維持、雇用の維持が困難であることなどを理由に挙げて、緊急事態宣言がされても平常通り営業を続けるという原告代表者の意見を表明したにとどまり、他の飲食店に夜間の営業継続を扇動したり原告との協調を呼びかけたりしたものではなかった(むしろ、他の飲食店の動向に関わりなく、自社は緊急事態措置に応じないという意思表明であったと読むのが自然である。その旨は、本件弁明書の記述からもうかがわれる。。また、本件記事の掲載日から本件命令発出日までの2か月余りの間に、本件記事に示された原告代表者の意見に触発されるなどして実際に夜間の営業を継続した飲食店の存在を認めるに足りる証拠はない。そうだとすると、これに引き続き本件命令発出日以降の4日間のうちに、本件記事の発信が他の飲食店の夜間の営業継続を誘発する具体的なおそれがあったということもできないと考えられる。すなわち、この点についても、本件命令は4日間しか効力を生じないことが確定していたにもかかわらず、被告が同命令をあえて発出したことの必要性について、合理的な説明はされておらず、また、同命令を行う判断の考え方や基準についても説明がない。
 ・さらに、上記2000余りの店舗中、被告が本件対象施設のほかには、わずか6施設(6事業者)に対してしか、45条3項命令を発出しなかったことは(同(3)ケ、コ)、制裁規定の前提となる不利益処分を課された原告にとって不公平なものであり、内閣官房の指摘する公正性の観点からの説明は困難といわざるを得ない。
 と指摘し,本件命令につき、本件原告が本件要請に応じないことに加え、本件対象施設につき、原告に不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があったと認めることはできず、本件命令の発出は特に必要であったと認められず、違法というべきであるとしています(ただし,賠償を求めた本件の結論としては,都知事が本件命令を発出するに当たり過失があるとまではいえず、職務上の注意義務に違反したとは認められないとして請求棄却しています)。

 

 

なお,特措法自体の合憲性については,営業の自由や表現の自由には反しないとしており,本件は,本件命令が法律に定められた要件を満たしたものではなかったという判断になります。

 

 

私は国民の生命健康を守るために,強制力を持った合理的な措置をとること自体は問題ないと思ってますが,本件の場合,普通に考えて,緊急事態宣言の解除の4日前になって命令をするということ自体が不合理であろうかと思います。