山口県阿武町が誤って新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円(463世帯分)を1世帯に振り込んだ問題を巡り、誤給付分全額を別の口座に振り替えたとして電子計算機使用詐欺罪で起訴された、振込先の世帯で無職被告(24)=同町=が10月5日に山口地裁で始まる公判で無罪を主張する方針であることが、関係者への取材で判明した。被告は捜査段階で当初、容疑を認めていたが、弁護側は同罪の構成要件を満たさないと訴える見通しだ。

 

被告人が容疑を認めていたといっても,本件は事実関係については争いがなく,それを前提として電子計算機使用詐欺という犯罪が成立するかどうかは法律の素人である被告人には正しい分かるはずもないので,認めていたのに態度を翻したと捉えるのはかわいそうだと思います。

 

 

法律家の間でも本件についてはいろいろと見解が分かれているという状況において,弁護人としては事実関係に争いはないとした上で法的評価を争うというのはごく自然の訴訟対応かなと思います。

 

 

人を騙して財物を得るのが詐欺罪,あえて言うなら人ではなく機械を騙した場合が電子計算機使用詐欺ですが,正しい情報を入力して送金した場合に「虚偽の情報」や「不正な指令」を与えてはおらず同罪は成立しないのではというのが本件の問題の所在です。

 

 

元々の混乱の元は,判例が民事事件においては誤振込であっても預金債権は口座名義人が取得するという判断を下した一方で(このように解すると後で誤振込した人から文句を言われずに銀行が助かるからです),刑事事件においてはそのような誤振込された預金を窓口で引き出す行為については銀行を騙した詐欺になるという判断を下したため,民事でセーフな行為がなぜに刑事だとアウトなのかというところにら起因しているものともいえます。

 

 

刑法

(電子計算機使用詐欺)
第246条の2 
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

 

 

給付金463世帯分を1世帯に 4630万円回収できず 山口 阿武町 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)