家庭の法と裁判39号で紹介された裁判例です(東京高裁令和元年10月16日判決)。

 

 

本件は亡くなった母親の自筆証書遺言(遺言状 私●●は,土地建物預金現金を長男にゆずる 平成21年12月●日 署名押印)につき,遺言作成時点の遺言能力の有無に関して,第一審判決は遺言能力を有するとしたのに対し,控訴審ではこれを欠くとして遺言が無効とされたという事例です。

 

 

事実の概要は次のようなものです。

・遺言者には遺言作成の時期において,ものとられ妄想や物忘れを短期間のうちに繰り返したりしていた。日の消し忘れもあった。

・しかし,自ら料理や買い物をして生活は自立していた。

・平成22年2月の長谷川式検査では17点(年齢や場所については正答したが当日の日付を平成8年と間違えている。),脳萎縮がみられた。アルツハイマー認知症を前提としてアリセプトが処方された。

・同年9月の検査では4点とされ,自己の財産を管理処分することはできないとする鑑定書が作成された。

・平成22年10月後見が開始された。

 

 

第一審判決は,本件遺言の内容が長年同居していた長男に譲るという単純なものであることなども踏まえて遺言能力があったものとしましたが,控訴審判決は,上記の事実経緯について遺言能力を欠くものと評価しています。

 

 

感想として,長谷川直近の長谷川式の検査もかなり低いというほどのものともいえないし,遺言内容も単純で了解可能なものであることも考えると,なかなか微妙な判断だなという気はします。

 

 

 

遺言能力を欠いていたことを理由として自筆証書遺言が無効とされた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

自筆証書遺言が無効とされた一事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)