判例時報1497号で紹介された最高裁判例です(最高裁令和2年10月1日判決)。

 

 

本件は,盗撮目的で建造物に侵入し(建造物侵入 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金),盗撮をした(めいわく防止条例違反 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)という事案で,前者が後者の手段という関係となっています。

 

 

このような場合,刑法54条1項は次のとおり規定し,「最も重い刑」により処断すると定めています(科刑上一罪)。

 

刑法
(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第54条1項
 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

 

本件において,検察官が罰金40万円の科刑意見を付して略式命令を請求したところ,簡裁が罰金10万円の略式命令をしたため,検察官が正式裁判を請求したというものです。

 

 

「最も重い刑」を判断するに当たり,各罪に定められた主刑のうち重い刑種の刑のみを取り出して軽重を比較対照して決めるとした判例(最高裁昭和23年4月8日判決)があり,これこれに従うと,両罪ではいずれも懲役刑が規定されており,これを取り出して比較すると,建造物侵入罪で規定された3年以下の懲役が最も重い刑となるので,同罪の法定刑により処罰することになるところ,本件第一審判決は,罰金を選択すると10万円までしか科刑できず不当であるとして,懲役2月執行猶予3年間の有罪判決を下しました。

 

 

しかし,罰金刑を選択しようとした場合に,重い罪を犯したことで罰金刑が低くなってしまって,それが不当であるから懲役刑となるというのも何かおかしな感じがします。

 

 

そのため,本件の最高裁判決では,昭和23年判例は,併科刑又は選択刑の定めがある場合の法定刑を対照して,その軽重を定めるについては,刑法10条のほか,複数の主刑中の重い刑のみについて対照をなすべき旨を定めた刑法施行法3条3項をも適用しなければならないとするもので,本件のような科刑上一罪の事案において重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがある場合の罰金刑の多額についてまで判示するものではなく,軽い罪のそれによることを否定する趣旨とも解されないとした上で,本件のように,数罪が科刑上一罪の関係にある場合において,各罪の主刑のうち重い刑種の刑のみを取り出して軽重を比較対照した際の重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり,軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときは,刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み,罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきものと解するのが相当であるとしました。

 

 

そのため,めいわく防止条例における罰金刑を選択することができることを前提として審理を差し戻しています。