判例時報2508号で紹介された事例です(福岡高裁令和2年11月27日決定)。
福岡県に住所のある原告が,男性同士の婚姻を認めていない現行制度の違憲を主張する国賠請求を福岡地裁に提起し(先行事件),その後,熊本県に住所を有する原告が同内容の訴訟を福岡地裁に提起し(本件),先行事件と併合審理するように上申したところ,被告である国が,本件については福岡地裁に管轄がないとして熊本地裁への移送を申し立てたというものです。
地裁が,先行事件と本件が民訴法38条前段の関係にあるとして民訴法7条を類推適用(同条は訴え提起の段階について規定しているが本件は先行事件提起後の訴え提起)して先行事件本件を併合する決定をしたのに対し,高裁は本件について福岡地裁が管轄権を有することを否定して熊本地裁への移送を決定しました。
民事訴訟法
(併合請求における管轄)
第7条 一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
民事訴訟法
(共同訴訟の要件)
第38条 訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。
訴訟の提起がなされた後に,原告であれ被告であれ当事者を追加することを主観的追加的併合といいますが,これについては,追加される当事者の手続保障の観点から否定されています(追加される当事者にとっては,既に進行している手続きに強制的に加えられることになるため)。
高裁ではこの点をあげた上で,土地管轄の定めは法律で定められた管轄であり,当事者が併合上申したからといってその存否が左右されるということはないとし,法定の管轄権のある裁判所で裁判を受ける当事者の利益を法律上の定めもないのに失わせることは許されないとしました(このことは,両事件に民訴法38条前段の関係がある場合でも変わらない)。
例えば,訴訟提起した後になって,別の原告も訴訟に加わりたいとか,被告を加えたいというようなこともあり得るのですが(当初の検討が甘かったという場合もあれば,審理の進行によってそのようなニーズが出てくるということもあります),対応としては,その原告又は被告について別途,訴訟費用(印紙)も納付した上で訴訟提起しなければならず,印紙が高額である場合には相当な痛手である上に,管轄が違う場合には裁判所も別々ということになってしまうので,当事者を誰にするのかということは訴訟提起の段階で慎重に吟味すること求められます。