判例時報2500号で紹介された事例です(仙台高裁令和2年11月17日決定)。

 

 

破産手続開始の申立がされたとしても、破産法30条1項2号は、不当な目的その他申立が誠実になされたものでないときは、申立を棄却するものとしています。

 

破産法

(破産手続開始の決定)

第30条1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。

一 略

二 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。

 

本件は債務者自身が申し立てた自己破産ではなく、債権者により申立がなされた債権者申立ての事案です。

債権者申立による破産申立は、債権の存在や債務者が支払不能の状態にあるのかどうかが争われ、結果として申立が棄却されることはそれなりにありますが、本条項が適用されるというのはそれほど例がないかと思います。

 

 

本件は、債権者といっても単純にお金を貸したのに返してもらえないとか取引先の買掛金が支払ってもらえないといった内容ではなく、申立債権者は、債務者(砂利等の採取販売業者)に対して融資を行うと同時に、債務者の唯一の資産である砂利事業の譲渡を受け、砂利の販売量に応じて報酬を得たり、事業による利益が一定の金額に達した場合には債務者が事業を買い戻すことができるといった内容の契約が締結され、申立債権者は本件事業譲渡によって巨利を得ることができるという内容のものでした。

 

 

この事業譲渡を巡って申立債権者と債務者は紛争となり、双方代理人して弁護士が立てられているのにもかかわらず、申立債権者は、実力行使によって砂利の採取場から債務者を追い出そうとしたりするなどの行為を行っており、そのような状況において本件破産の申立がされたのですが、裁判所は、本件の破産申立は、申立債権者が本件事業譲渡による利益を確保し、債務者の抵抗を排除する目的のためになされたものであり、破産手続きを通じて公平な弁済を受けることを目的とした申立とはいえず、破産法30条1項2号に抵触する申立であるとして破産の申立を棄却していてます。