判例タイムズ1471号で紹介された裁判例です(東京地裁平成30年10月26日判決)。

 

 

本件は,医療法人の代表社員である理事とその他の社員理事らとの間の紛争が昂じた事案の一環ですが,社員理事らが提起した,社員総会(議題は代表社員理事の社員の除名,社員理事らの再任)の招集を命じる裁判所の判決が確定したことから,代表社員である理事長が総会招集通知を発するとともに,社員理事らの議決権停止を求める仮処分を提起したところ,仮処分の決定が社員総会よりも後になってしまうことが判明したことから(そのまま総会が開かれてしまうと多数決により自らの社員の除名などの議決が通ってしまう),社員総会の日時や場所を変更する旨の招集通知を発したのに対し,社員理事らは当初の総会の日時場所により総会を行い代表社員理事を除名する決議行なったというものです。

 

 

代表社員理事長による社員総会の日時場所の変更が有効であれば,社員理事らが行った決議は不存在ということになります。

 

 

裁判所は,法人の定款では,で理事長に招集権限があるものとされ,総社員の5分の1以上の社員から会議に付議すべき事項を示して臨時総会の招集を請求された場合には,理事長に社員総会の招集が義務付けられるものの,招集に際しては,会議の目的である事項,日時及び場所を記載した書面を理事長が記名のうえで送付することで招集通知を行うこととされており,医療法46条の3の2第3項,4項には同様の規定があるほか,同条5項には,社員総会の招集の通知は,その社員総会の日より少なくとも五日前に,その社員総会の目的である事項を示し,定款で定めた方法に従ってしなければならないと,具体的方法については定款に委ねていることから,定款によれば,理事長に社員総会招集の権限があり,その招集をする書面には,社員総会における付議事項や開催日時及び場所についての記載や理事長の記名が要求されるのであるから,開催日時及び場所等を含め,社員総会に関する具体的事項を決める権限は原則として理事長にあると解するのが相当であり,定款に基づいて社員が求めて招集される社員総会の具体的事項については,会議の目的である事項については,社員が招集請求において決定することができるが,日時及び場所については,原則どおり理事長が決定することができると解するのが相当であるとしました。

 

 

本件の代表社員理事長による総会の日時場所の変更は有効ということになり,なんだかずるいような気もしますが,社員による招集請求を実現させないような開催日等の変更については,その態様や目的等諸般の事情を考慮し,権利濫用として開催日等の変更の効力を否定すれば足りるとし,本件では本件仮処分が社員権に基づく議決権の行使の差止めを内容とするものであって,社員総会決議の成否にかかわる事由であることに鑑みると,社員総会の開催日の変更目的が社員による招集請求を実現させないことにあるとはいえず,その態様も,本件変更通知の発送が本件総会の6日前に発送され,定款29条1項が社員総会招集通知として要求する5日前までという期限よりも前のことであり,変更後の開催日時も1か月程度と長期間とはいえず,場所も同じ建物の異なる部屋という程度の変更で会って問題ではないとしています。