判例時報2483号で紹介された事例です(横浜地裁令和2年6月11日判決)。
本件は、相続税申告に関する税務代理を税理士法人に依頼した依頼者が、税理士法人が租税特別措置法69条の4に定める小規模宅地の特例の適否を検討せずに、その適用をしなかったため、相続税額が高額になったとして損害賠償を請求したという事案です。
本件は、相続の発生が見込まれることとなったため、被相続人が所有する土地を同族会社の社屋として賃貸することとし、居住用でなくとも一定の場合に、小規模宅地の特例の適用を受けられるという租税特別措置法の規定の適用を受けられるように準備していたのですが、初回の賃料の支払いが始まる前に相続が発生してしまったため、特例の適用があるのかどうかが問題となりましたが、裁判所は、賃料の支払いがされていたことは特例の適用の条件ではないとして、特例の適用を肯定しています。
そうすると、特例の適用により税額が抑えられていたはずであるのに高額となってしまったということで税理士法人の責任が問題となるところ、税理士法人との契約書では、税理士法人の損害賠償責任を制限する旨の規定が設けられていたことから、これが消費者契約法10条に抵触して無効となるかどうかが争われました。
消費者契約法
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
裁判所は、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨,目的(同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきであるとする判例(最高裁平成23年7月15日判決)の基準を踏まえ、本件においては、相続税申告といの税務代理という性質からすると、相続税申告期限内に、他の税理士との相見積もりを取って比較するなどして契約条項を比較して締結するかどうかを決めることを期待することはできず、税理士法人と税務の専門家ではない依頼者との間には情報量や交渉力に格差があるといえ、自身に生じる損害の額、すなわち、本件責任制限条項により自身が負担することになるリスクを見積もることは困難な段階で、損害賠償請求権の一部を放棄させることになる本件条項は無効であると判断しています。