判例タイムズ1482号で紹介され事例です(名古屋地裁令和2年6月4日判決)。

 

 

報道もされましたが,同性のパートナーと共同生活をしていた原告が,原告自身と交際していた別の男性にパートナーを殺害されたとして,犯罪被害者給付法に基づき給付金の請求をしたというもので,同性間の共同生活関係にあった者についても「犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)」(法5条1項1号)に該当するかが争点となりました。

 

 

犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律

(遺族の範囲及び順位)

第5条1項 遺族給付金の支給を受けることができる遺族は、犯罪被害者の死亡の時において、次の各号のいずれかに該当する者とする。

 犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

 

判決ではこの争点について,「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」かどうかは社会通念により判断すべきとしたうえで,同性の共同生活関係についての社会一般理解が相当程度進んでいるとしながらも,いまだ社会的な議論の途上にあって婚姻関係と同視し得るほどの社会通念が形成されているとはいえないとして請求を棄却してまいす。

 

 

ただ,この場合,判断の基準とすべきなのは社会通念よりも,被害者と共同生活を営んでいた被害者の生活の保障や被害の回復を図るという法の趣旨から考えていくべきではなかったのかなと思います。

同性間であっても,経済上一体の家計として生活を共同して営む,パートナーとして社会的に認知されている関係であるという事実上の婚姻状態ということは事実上存在していることは間違いなく,同性間と異性間で区別することにあまり合理的な理由がないように思います。



本件では,パートナーを殺害した犯人は原告とも関係があり,「原告を独り占めしたい」という動機で殺害行為に及んだとの事情のようで,通り魔のような事案とは異なり,原告自身にも責められるべき事情の一端があるようなので,給付金の請求を認めることには一抹の座りの悪さもあるところですが,これは,「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」かどうかという問題ではなく,給付金を支給しないことができる事情(法6条3号)において考慮すべき事情であるようにも思われます。

 

(犯罪被害者等給付金を支給しないことができる場合)
第6条 
次に掲げる場合には、国家公安委員会規則で定めるところにより、犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができる。
三 前二号に掲げる場合のほか、犯罪被害者又はその遺族と加害者との関係その他の事情から判断して、犯罪被害者等給付金を支給し、又は第九条の規定による額を支給することが社会通念上適切でないと認められるとき。

 

同性間の事実婚の保護が問題となったり婚姻していても遺族年金の受給資格が認められるかどうかいった問題が争点となった事例としては以下のようなものがあります。

 

 

約7年間の事実婚の関係にある同性カップルの相手方が他者と関係を持ったことによる損害賠償請求の可否 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

夫の暴力により約13年間別居していた妻についての厚年法の遺族年金受給権の有無につき判断した事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)